温ければ眠い



春がやって来た。桃の花が咲き、いちめんが明るい色に染まる。それは眩しいくらいの景色で、凌統は思わず目を伏せた。
「酒にまんじゅう、それに碁盤がある」
午睡に入ろうと寝転んだ凌統の頭上で声がした。ちりん、と鳴る鈴の音に、自然と顔をしかめてしまった。派手な髪に刺青、そして酔狂な鈴。覗き込もうとしてきた甘寧に、凌統は拳をあげた。
「危ねぇな、おい」
「眠りを妨げられたんでね、機嫌が悪いのさ」
「なんだそれ、ガキかよ」
「うるさい」
拳の次は足が来た。寝転んだ体勢から武術を繰り出すあたり、なかなか器用だ。さすがの甘寧も、単純に組手だと、凌統に勝てると言い切れない。しばらく相手をしたところで、凌統は不意に攻撃をやめた。うっとうしいんだよ、ほんとに。だるそうに目を閉じる凌統に、甘寧は遠慮なしに話しかけた。
「お前、疲労困憊か」
「……悪いかよ」
「いや、構わねぇよ。邪魔して悪かったな」
また次にするべきか。手荷物を残念そうに見つめ、甘寧は踵を返した。しかし、思わぬところで甘寧を止めたのは、紛れもなく凌統だった。足首を問答無用で掴んできた凌統を見下ろしてから、甘寧は勢いよく腰を下ろした。そして豪快に笑う。おかしくて仕方がない。
「静かにしろっつの」
「へぇへぇ、さっさと眠れや」
「言われなくても、そうさせてもらうよ」
口が減らないやつめ。余程疲れていたのか、すぐに凌統から静かな寝息が聞こえてきた。
「……一人酒、も、さすがにな」
甘寧は右手の酒瓶を残念そうに見ては、めずらしくもおとなしくなっていた。
相変わらず、桃の花だけが愉快に踊っていた。どこからか騒ぎ声が聞こえてくる。誰かが宴でも始めたのだろう。温い陽気のなか、凌統は短い夢を見ていた。





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