きっとなんとかなる


偶然通りかかっただけだった。甘寧が城で見たのは、足に大怪我を負った凌統の姿だった。装束についた血の痕、白い包帯、弱った顔の凌統。甘寧は正直に驚いた。
(なにやってんだ、こいつ)
武人の怪我などはよくあるもので、なにも珍しくはない。しかし、凌統のこれは別だ。彼の戦法でこの怪我はかなりの痛手だ。機動力を生かしての素早い連続攻撃が凌統の自慢なのだ。しかし足が封じられては、どうしようもない。
「なに、笑いに来たわけ?」
甘寧を見つけるや否や、凌統は不機嫌を露にし、相変わらずの皮肉的な言葉をぶつけてきた。あー、とか、おぅ、とか、生返事の甘寧に、凌統はむなしくなった。苛立ちを押さえられなくても、甘寧に当たってもどうしようもない。とたんに口をつぐむ凌統は、泣きそうな顔をしていた。
「悪い、凌統。そういうつもりはなかった」
「……さっさと行けよ、邪魔だっつの」
「凌統、」
「うるさい」
「無理すんなよ」
飾り気のない率直な言葉に、ついに涙の粒が落ちてしまった。甘寧の前で泣いている、弱味を見せている、その事実がどうしても受け入れられない。凌統は悔しくてたまらなかった。唇を噛んで、嗚咽を堪える。甘寧はその凌統の隣に腰を下ろして肩を抱いてきた。今すぐその腕を叩き落としてやる。口先だけで、凌統はそのまま、しばらく哭いていた。
命に別状はない。怪我さえ治れば、あとはどうにでもなる。それまでは、しばらく安静にしていてくれ。医者はそう言った。周りの皆は、大丈夫なのか、無事なのか、と過保護なくらいに聞いてきた。凌統は自分の弱さを知ったような気がした。だんだんと心細くなって、不安になってきた。甘寧がやってきたことに、ほんの少しだけ嬉しさを感じた。しかし悔しさが勝った。口から出る悪態に、自分でもうんざりした。感情がぐちゃぐちゃになって、疲れてきたのだ。
「無理すんなよ、殿や周瑜も心配すんぞ」
「……甘寧の、ばかやろう」
「なんとでも言えや」
今はもう、休んでしまえ。





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