空白
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おかしいな、と思った。幸村は首をかしげる。わからないことは、わからない。佐助が、いつもなら呼べばすぐ現れるはずなのに、今日は出てこない。
「佐助、」
「隊長なら、お館様の命令で、書簡を届けにいってます」
忍び隊の誰かが、こっそりと教えてくれた。納得した。しかし、いつも煩いくらいにいるやつがいないというのは、なにやら不思議な気分であった。実際は、佐助よりも、幸村のほうがう煩かろうに。
考えていても仕方がない。庭に出るやいなや、幸村は二槍を振るった。空気の切れる音がする。天覇絶槍、真田幸村、常に本気である。それなのに――
「落ち着かない」
落ち着いているときがいつかは、誰も知らないけれども。要するに、集中ができないのだ。佐助が気になって、仕方がない。これでは何もできないではないか!
そんな幸村の姿を見て、女中や忍びは、クスクスと笑っていた。もちろん、卑しい笑みではない。二人の仲の良さが微笑ましいのだ。
「由利、佐助はいつ帰ってくるだろうか」
もうすぐ、と由利が答えた。それまで、隣が寂しく感じるのは、我慢だ。




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仲良し真田主従






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