遅咲きの花
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「、小十郎」 「どうなされましたか」 「花が、まだ、咲かない」 猛暑を控えた今日、政宗は庭の朝顔を見つめていた。薄い青色の、可愛らしい花が咲いていた。しかし、政宗が指差す一輪は、まだ蕾のままだった。朝顔は、朝から日中にかけて花を開き、夜には閉じてしまうのだ。太陽は高い。それでも、その花は、顔を隠したままであった。 「小十郎、水」 「は」 「……やっぱいいや、俺がやる」 珍しく覇気の無い顔をする政宗に、小十郎はなにも言わず、下がった。小十郎が出ていったのを確認して、政宗は水を引っ張った。咲かぬ花の根本に、両手を使って、ちょろちょろと水を指す。 とくに何かあったわけではないの―― 「やっぱりな、仲間はずれみたいで、気分よくないよな」 花を愛でたいわけではなくて、うまくは言えなかったけれど、気になっただけなのだ。空はこんなにも青いんだから、花開いて凛としてても、いいじゃないか。 縁側に腰掛け、涼風を感じながら、庭先の朝顔を眺めていた。それが三日間続いた。 三日目の朝だ。 「政宗様、政宗様」 起きてください。軽く体を揺さぶられて、政宗は目を覚ました。眼帯をつけて、小十郎に言われるがまま、縁側まで動いた。庭先の朝顔は、みんな咲いていた。 「咲いたか」 「咲きました」 「そうか」 政宗は、小さく笑った。 「粋だな、ははっ」
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