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よく冷えた瓜を食べ、一休みしていたところだった。暑い日差しが照りつける夏の日、夫妻は風通しがよく涼しいこの部屋で談笑していた。
「龍とは、どのような生き物なのですか」
「知らないのか」
「阿梅は知りませぬ」
「教えてやる」
重綱は筆と紙を用意させると、墨をつけ、そこに絵を描き始めた。龍を描こうとしているらしい。少しずつ姿を露にする龍を、阿梅は興味深く見つめていた。頬はわずかに赤くなり、初めて見るそれに興奮しかけているのか。それで気分がよくなったらしい重綱は、緩む頬を抑え、平然と描き続けた。妻の前だ、見栄くらい張りたいものだ。
そんなに時間はかけなかった。紙の上に現れた未知の龍に、阿梅は釘付けになった。
「こういうものだ。私は父から教わった」
「すごいです、海の向こうでは、このように立派な龍が空を駆けているのですね」
阿梅は想像していた。龍が空を縦横無尽に駆ける、壮大な空想だった。
「この国にも、いるのだ」
元は神職者の子が言う。阿梅がわかった、と手を叩いた。
「お屋形様ですね」
阿梅の言葉に、重綱は呆気にとられた。しかし、すぐに腹を抱えて笑いだした。
「違いない」
残暑の夏の日、明け広げられた一室、夫妻の幸せな笑い声が響いていた。





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もちろん、独眼竜伊達政宗である。
まぁ、大きな戦も終わって、しばらくして、阿梅は武士の娘だから、元気に過ごせたのだろう、と。うつうつしているのは、まずないでしょうよ、きっと。





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