動かない時計
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それは本当に偶然だった。ここまでよく晴れた昼の時間帯は久しぶりな気がして、アリスは城の薔薇園を散歩していた。なぜかペーターと遭遇して、そのまま詰め寄られたが、なんとか逃げた。ハートの城を出て少しした道で、アリスは「心臓」を見つけた。時計だった。どうして私が見つけてしまったの。そっと時計を拾い上げた。砂ぼこりを払う。目立つ損傷はない。ただ針は動いていない。チクタクという音と一緒に動くはずの時計は、この世界そのものだ。ここで誰かが死んでしまったのだろう。破壊されていないのは、幸か不幸か。複雑な気持ちのまま、アリスは時計塔に向かった。時計は手に握りしめて、いつの間にか駆け足になっていた。
時計塔で、真っ先にユリウスの仕事部屋に入った。いらっしゃい、とも、邪魔だ、とも言われなかった。そこで拾ったのだ、と簡単な説明だけして、あの時計を預けた。ユリウス曰く、すぐに直せる、らしい。彼は時計を机の上に置いて、アリスにコーヒーを淹れてくれた。カフェインの苦味で、嫌なことは、一瞬だけでも忘れられそうな気がした。
結局、三時間帯ほど、時計塔に居座ってしまった。その間、エースがやって来た。回収された時計が、かしゃりと音をたてる。不意に、アリスは目を背けた。

あの人も、いずれはただの時計になってしまうのかしら




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QuinRoseのアリスシリーズ。唐突で申し訳ない。ちなみに私はユリウス、エリオット、ピアス、グレイ、エースが好きです。未プレイだがな!





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