雛菊
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あぁ、美しい。張コウが突拍子もなく「美しい」と言い出すのには、もう慣れたのだ。司馬懿は気にせずに策を巡らせていた。念には念を入れる。絶対の勝利が欲しい。雑念は捨てたい。 「司馬懿殿!」 「黙れ!」 先ほどから司馬懿の周りをそわそわと動いていた張コウに、ついに嫌気が差したらしい。司馬懿の怒声が飛ぶ。しかし、張コウは気にしていない。効果はなかった。思わず、大きなため息が出た。自然と肩から力が抜ける。 「それです。力み過ぎては、逆に疲れてしまいましょう」 「張コウ?」 「これからが本番ですからね、あなたにここで倒れられたら困ります」 このくらいで倒れはしない。さすがに心配の必要はないように思えた。司馬懿が怪訝な顔をすると、張コウはまたも、美しい、と言った。 「何が、美しいと言うのだ」 こんな汚れた血生臭い場所に、美しさなどあるものか。皮肉のように吐き捨てた司馬懿に、張コウは、ありますとも、と返すのだ。彼はそのまま前線へと駆け出していった。まだ突撃の指示は出していないというのに! 馬鹿めが! 叫んで後を追うように部隊を動かした司馬懿が見たのは、まるで舞っているような、張コウの勇だった。 戦場を美しく飾りましょう。 早くこの戦を終わらせてしまおうと思った。
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最後の主語は、どちらでもいいや。
Circulation.
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