月の唄
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夜の肌寒さが気にならぬほど、桐木は夢中になっていた。森の中、一本の木の枝、すみれがいた。夜こっそりと抜け出す彼女を追ってきたのだ。たどり着いた場所が、ここだった。何をするのか、と木陰から目を凝らせば、予想外の行動をされた。すみれは、歌っていた。覚えがなくもない。幼き頃、母が歌ってくれたような、そんな歌だ。子守唄か何かだろうか。普段のつっけんどんなすみれからは想像がつかないほど、優しい歌だった、優しい歌声だった。 「いつまでそこにいるつもり」 気づいていたらしい。隠れることはせずに、木を駆け上った。腰を下ろしたのは、もちろん、すみれの隣である。 「なぁ、歌えよ」 「なんで」 「いいから、歌え。俺が、聴きたいのさ」 不服そうな顔をされた。それでも、頼む、と一言かければ、しぶしぶといった様子で、すみれは歌い始めた。ちょうど、月が出てきた。おぼろに月の光を浴びながら歌うすみれの姿は、きれいだった。隣でただ一人の客として聴いていられることに、ちょっとした優越感を覚え、桐木は良い気分のまま、そっと目を閉じた。
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なかなか本編が書けなくて…… それ以前、読んでもらえているのだろうか。需要ある?
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