散り逝く華
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ひらりひらひら、一枚ずつ、花びらが散っていく。その様を、千姫が静かに見つめていた。豊臣の居城、大阪城にて。
「千、どうしたのです」
淀殿は千姫に話しかけた。振り向いた千姫は、お義母様、と笑った。彼女は秀頼の妻である。徳川家康の孫で、淀殿の姪でもある。嫁いできたときはあんなにも小さかった彼女は、もう立派な女性になろうとしていた。淀殿には、それが喜ばしくて、悲しくもあった。大人になれば、理解しなくてはならないことがある。いつまでも、子供でいられないのまた、仕方がない。
「お義母様、ご覧ください」
見事な桜が咲いております。思い出す。絢爛豪華な城にふさわしいように、桜を植えていた。そしてこれを肴に「あの人」は酒を飲んだのだ。そういえば、「あの方」も、最後にこの桜を見ていたのだろう。
「お義母様、」
しばらくぼーっとしてしまったのか、千姫が淀殿の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「何でもありませんわ。ただ、見とれていただけですよ」
「、散っていく桜は、美しいと、千は思うのです」
咲くのが美ならば、散るのもまた美である。淀殿が思っている以上に、千姫は大人なのかもしれない。
盛者必衰の理、淀殿の胸がつきりと痛んだ。忘れろ、忘れてしまえ。たとえ何があろうとも、淀殿は自ら負けることは許せないのだ。
まだ、散れない。




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「砂の夢」とリンクしていたり、しなかったり。








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