犯した罪は生きる枷




「なんかさ、あいつ、つかれてるよな」
「あいつ、とは誰でござるか」
「猿飛だよ」
「佐助が、」
何もわからないのが、幸せだとは限らない。

その日、部屋に帰ると、幸村は佐助を探した。しかしいなかった。買い物に行ってしまったらしい。たしかに、冷蔵庫の中は何もなかった。夕方だから、タイムセールも始まっただろうか。
妙にそわそわしながら、ケータイを取り出した。電話帳から佐助のアドレスを開いた。ケー番を表示して、通話ボタンを押しかけて、やめた。おとなしく、佐助が帰ってくるのを待つことにした。

佐助が帰ってきたのは、それから三十分もしない頃だった。玄関から帰宅する佐助の声が聞こえて、幸村は思わず走った。
「佐助、おかえり」
「うん、ただいま」
そのまま、幸村は佐助の買い物袋を取って、キッチンまで運んだ。急にどうしたのか、佐助は首を傾げた。いつもなら、夕飯の話が真っ先にあるはずなのに。
「なぁ、佐助」

「疲れているのか」
「うん? まぁ、人混みは、疲れるよね」
まぁ、この時間帯のスーパーなら仕方がないからね。幸村の求めた答えとは、ずれていた。それでも、何がずれているのかがよくわからなくて、追及することはできなかった。
「なんか、してほしいことはあるか」
「じゃあ、それ、しまってくれない」
買い物袋の中身を指していた。おとなしく、冷蔵庫にしまっていく。場所は、わかっていた。
「他にな、俺に、求めていることとか、」
「どうしたの、旦那。何かあったの」
「別に、何も、ない」
問いただすようなことをしないのは、佐助の諦めだった。こういうときの幸村は、頑固だ。それに、ある程度、想像がついた。
「しいて言うなら」
考えるふりをして、佐助は幸村と視線を合わせた。幸村は、答えを欲していた。
「俺様と、一緒にいてよ、ずっと」
そんなことでいいのか、と拍子抜けしていた。幸村は平然と言うのだ、佐助の苦悩は、知らないからだった。そんな幸村が大切で、ときに憎く思う。佐助はそんな自分を嫌悪した。
「当たり前だろう!」
鈍い痛みが、幸村を、佐助を襲った。





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