すべては過去となる キャンパスの片隅には、片倉小十郎の菜園がある。片倉先生に会いたいときは、まずここに行くがよろし。しかし大抵の場合、伊達政宗がいる。その小さな噂は、あながち間違いではない。 「よぉ、猿飛」 うまい具合に無視を決め込む。佐助はその先の武道場に用があった。 「シカトすんな」 絡まれてしまった。浮かない顔で、振り向けば、やたらとテンションの高い政宗がいた。 「俺様、暇じゃないんだケド」 「I knnw. 真田幸村のとこだろ」 「なら邪魔しないでよ」 自然と言葉に刺が入る。しかし政宗は不快な顔などせず、むしろ楽しそうだった。それが佐助をむしゃくしゃさせる。 「政宗様、いい加減にしてください」 保護者とも言える小十郎が出てきたと思えば、政宗を注意した。それだけだった。あとは菜園に夢中だった。構ってられない。 「猿飛、」 「何さ、まだなんかあるの」 「真田は、何も覚えちゃいねーよ」 だから、気にするだけ無駄だ。 「だから、何」 苛立ちは、ぬぐえない。首を突っ込んでくるな、佐助は冷たく言い放って、武道場へと急いだ。 その後ろ姿を、政宗と小十郎が静かに見ていた。可哀想なやつ、そう思っていた。 佐助は思い出してしまった。それ以来、気に病んでいた。空気が、冷たくなっていく。 『佐助、お前に頼みがある』 そうだ、そして一時戦場を離れた。戻ってきたとき、幸村はまだそこにいた。だから、まだ大丈夫だと過信してしまっていたのかもしれない。佐助はまた見逃してしまっていたのだ。その身体は限界がきていた。 佐助、とまた呼んでほしかった、な。 「佐助!」 ふと意識を取り戻す。竹刀を置いた幸村が、駆け寄ってきた。笑顔で伸ばしてくる手に、佐助は弁当を渡した。できるだけの笑顔を作って、練習頑張って、と言った。 「うむ!」 同じようで違う。あの声から離れられなくなっていた。影に入って、佐助は静かに哭いた。 |