私たちは確かに此処に存在していたのだ



「天覇絶槍、真田幸村、見参」
腕に自信があらば、勇んで参られよ。
その日の幸村は、ひどく焦っているようだった。その理由は、佐助と、数名の家臣のみが知っていた。
嫌な予感がした。悪寒が止まらない。佐助は駆ける。戦場を、疾駆した。
「真田の大将!」
「佐助、無事か」
「それはこっちの台詞だろっ」
よかった、まだ、幸村は生きている。ひとまず肩を撫で下ろした。しかし、安心も束の間だった。
「これから本陣を急襲する」
「本気なのか」
「あぁ。佐助、頼む、ついてきてくれ」
「当たり前だ」
幸村のそばから離れるつもりは毛頭なかった。誰かが幸村を止めなければいけない。それをできるのは、もう佐助しかいなかった。奥州独眼竜は、昨日の一戦ですでに戦線を離脱した。幸村の倒す相手は、残すは一人、徳川家康だった。
「いくぞ、俺に続け!」
皆が、死ぬ覚悟をしていた。佐助はそれを良しとしない。生きてこその、生。それが佐助の考えで、侍の生き方が嫌いだった。

「徳川家康、覚悟なされよ!」
「待っていたぞ、真田」
本陣への急襲は成功したかのようにも見えた。しかし、そうではなかった。敵総大将家康は、驚きはしても、慌てはしなかった。これでは失敗も同じだった。幸村の熱い槍と、家康の眩しい拳が交わる。見ていられなかった。そこに入っていくこともできない。
大将、と佐助の声は、幸村に届かなかった。
勝負に敗けた、その事実が残った。
幸村が地に倒れ込む、その寸前に、佐助が拐った。そのまま、本陣から離れていく。残った見方は、数騎だけだった。
真田軍はけっして弱くはなかった。ただ時の運に恵まれなかった、それだけのことだ。佐助は幸村に言い聞かせた。それでも、幸村の悔しさは消えなかった。
――不意に、重さが消えた

「さ、すけ、」

落武者狩りか、目立たぬ細道、ここにまで敵はいた。佐助の不注意だった。
落ちていく幸村の体には、無数の矢が刺さっていた。一本は確実に心の臓を貫いていた。
――朱槍は音をたてて二つに折れた
「真田幸村、討ち取ったり」

「旦那ァ!」
口の端から、血が溢れでる。流れ出るそれ、久しぶりに吐き気を感じた。何も考えられなくなり、佐助は叫んでいた。



あの凄絶な光景を、ときおり思い出してはうなされた。そして、自分を恨んだ。



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