世界の始まりに寄り添う僕ら


(まさにイフな話)





魔王が倒れ、覇王も倒された。奥州の若き竜と、その右目によって――
つまり天下は、伊達が、統一したのだ。


「Take it easy.何気張ってんだ、小十郎」


伊達軍が京より屋敷に戻ってから数日が経った。祝いの酒もほどほどに、さっそく仕事は始まっている。政に関しても、家臣を通して滞りなく進んでいるのだ。
そんななか、政宗は着流し姿で屋敷を出た。後に続くは小十郎一人。帯刀せずに飛び出す殿を案じて、小十郎は仕事を綱元らに任せて付いてきた。


「今や天下人である政宗様を、一人で出歩かせるわけにはいかないでしょう」


もっと緊張感を持っていただきたい。
小十郎の小言は、なんだか久しぶりに聞いた気がした。懐かしいような、くすぐったいような、不思議な気分だ。小十郎に気取られないように、政宗は静かに笑った。
無言のまま、てくてくと歩いていく。口笛を吹きながら先を行く政宗の足取りは軽やかだ。小十郎は政宗に付いてきただけで、行き先までは知らない。軽装だから遠出ではないのだろうが、だんだんと心配になってきた。


「お前、疲れたのか」
「まさか」
「だよな。このくらいでヘバってたら、先行き不安だからな」


小十郎には腹心として、これからも己を補佐してほしい。背中を預けるのは、いつだって小十郎なのだ。それは政宗の本心に違いなかった。
殿の言いたいことを理解して、小十郎は柄にもなく照れてしまいそうになった。気取られぬように、無表情を作ろうとした。
時折強く吹く風が木の葉を散らした。ひらひらと舞う葉は、なかなか掴むのが難しい。
――天下取りもまた、けっして易しい道のりではなかった。
無理をせずに奥州の守護に努めれば良かったかもしれない。掴まずに自然の流れに任せるべきだったのだろうか(それこそ、風に舞うこの木の葉のように)。
しかし政宗は天下統一を掲げ、ここまで来たのだ。
この天下、伊達の流儀、粋なやり方で、辿り着いたものなのだ。みすみす手放したりはしない。


「着いたぜ」


政宗の足を止めた場所。そこは屋敷一帯を見下ろせる、緩やかな丘の上だった。
夕刻の太陽できらきらと光る。何が反射しているのかは分からないけれど、綺麗な景色であることに変わりはなかった。そうか、ここはこんなにも美しい場所だったのか。


「ここが、俺とお前らの出発地点だ」


もう新しい世界が始まる。その世界を成立させたのは、紛れもない自分たちである。だからこそ、この世界を守っていくのも、自分たちの仕事なのだ。少なくとも本人はそう考えている。


「俺を支えられるのはお前だけなんだ。小十郎、これからも俺についてきてくれるか?」


迷うことはない。小十郎の答えは、いつでも変わらない。違えることはない、生涯貫ける強い意思。


「小十郎は、いつまでも、あなたの腹心でありたい」


時間が許す限り、政宗の傍にいよう。
そんな二人を祝福するように、彩りが鮮やかに輝いていた。





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title by 偽花

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