創痍、まだ癒えず



お館様が倒れて、新たな総大将に今までの覇気はなく、周りの者が気を遣っていた。そんな状況下で、佐助が重い腰をあげた。このまま放置するわけにもいかなかった。忍びとして、武田の一員として、けじめをつける時期なのだ。そう思った。
――俺が、一番、近いんだ
少しの優越感と、よく理解できない悲壮感。不透明な心を忘れるように、佐助は疾駆した。

上田の屋敷、夜の更けた刻。寝付けないのだろう。幸村はほぼ毎夜、閨から起き出しては、夜着のまま風に当たっている。心配は、あまりしなかった。
「風邪ひくよ」
「ひいた覚えがないから大丈夫だ」
「納得」
暗い夜半のなかでも、自然と会話が成立した。どこからか唐突に現れた佐助に対して、幸村は驚きもしなかった。こんな暗い中でも、忍び隊が活躍していることを、幸村は知っていた。
「また泣いてたか」
「泣いておらぬぞ。ただ、少しばかし、考えていたのだ」
「そっか、少しは大将らしくなってきたのかもねぇ」
「そうだといいのだがな」
幸村にはまだ、自信がない。それが理由の、この姿。もっと堂々としていたほうが彼らしくはあるけれど。自分で気づいてくれるまで、佐助は助けていこうと思う。
「佐助、そろそろ、動けるか」
「いつでも平気だよ」
あとは幸村次第だ。士気はけっして低くない。生かすも殺すも、大将の采配だ。重圧と、自分自信に、負けないで。






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