記憶は鮮やかなまま




忘れようにも忘れられない。そもそも忘れる予定もないのだけれど。鮮やかに残る記憶と、向き合うことはまだ難しい。

「お前さ、それでいいのか」
講義もなく暇ならしい。コミュニティ棟のテラスで寛いでいた佐助に、政宗から寄ってきた。かたりとテーブルの上の紙コップが揺れる。中身のカフェオレは無事だ。
またか、と思いつつ、離れるのも面倒になっていた。いい加減にしてほしい。それは関係ないと、政宗は気にしないのだ。
「、何がさ」
「もちろん、真田幸村のことだ」
政宗の鋭い声に、佐助が一瞬たじろいだ。そんな佐助に、政宗はずっと詰め寄る。
「変わったらどうなんだ」
「簡単に言うなよ。それより、何でアンタにそんなこと言われなきゃいけないのさ」
「他に誰か言ってくれるのか」
「言わないね」
間が辛い。温くなっていたカフェオレをぐっと飲み込む。佐助が顔をしかめる。今日はなぜか、いつもより苦く感じた。
「昔は昔、今は今、違うか」
そのまま、政宗は去っていく。何をしに来たのか、まさか佐助にそれを言うためだけだったと言うのか。佐助はその場で一人、苦笑した。彼の脳裏には、今もなお、赤い落下星が鮮明に焼き付いていた。
「佐助、休憩か」
あの旦那は死んだ、この旦那は生きている。



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