そこ退け、鬼よ この世から争いはなくならない。それを悪いと思うわけではないが、やはり好きにはなれない。嫌いだ、このような世界は。そしてこの世界同等に、あの者が嫌いだ、気に入らない。 上座に座しながら、元就は采配を床に打ち付けた。智将の不機嫌さを目の当たりにして、控えていた彼の手駒は露骨に震えた。 「……やつはどうした」 鋭い視線とともに冷たい声が間に響く。やつとは、言わずもがな、長曾我部軍、あるいはその大将元親のことを指している。 「未だ海上、こちらの出を窺っているものかと、」 「違うな」 「……と、申しますと」 「出陣の準備をせよ。我が直接指揮する」 「はっ」 足早に将は間を出ていった。畏縮した背は、外で伸びていた。くだらぬ。 「野郎共! 派手に暴れるぜ!」 大将元親と彼の子分たちの賑やかな掛け声が海の風に乗って聞こえてくるようだ。騒がしい、と元就は切り捨てた。あやつらを、さっさとこの瀬戸海に沈めてやりたい。 「……藻屑となれ」 声に出ていた。長曾我部来るのだが厳島に上陸すると、先方は得意の弓兵で一掃した。それだけでは、これでは、元就の不機嫌は直らなかったのだ。 長曾我部元親本人の登場には、ただの兵では敵わない。策を用いればいいではないか。それで溺れるほど、元就は甘くないのだが。 「アンタが堂々出てくるとはな、得意の策とやらも尽きたのかい」 「愚物が、その口を閉ざせ。貴様は、我がこの手で片付ける、絶対に」 「……そうかい」 重い鈍色の碇槍が元就の頭上を飛んだ。同時に、輪刀が刃を光らせていた。 「ずいぶんと動くのな」 「我は貴様が邪魔なのだ。故に、道は、排除するのみよ!」 結局、この戦でも両軍の決着は着かなかった。それでも、必ず次がある。元就も、元親も、互いに理解しているのだ。最期は必ずそこに辿り着くのだ、と。 あせる、あせる、時間を惜しみはしないのに。 (そこ退け、鬼よ) --------------- Pochi 本作要素を入れて、元就の無自覚。 拍手ログ ← |