この世で一番怖いもの




町は、祭で賑わっていた。その中心になっている人物が、慶次だった。珍妙な面を被り、派手に着飾って、楽しそうに踊っていた。目立っていた。皆が、彼を見ていた。
半兵衛は一団から少し離れたところに座って、慶次を見ていた。気づくかな、気づかないでほしいな。どっち付かずの心境で、真っ白い綿菓子を食べた。ふわふわのそれは、甘い。
「卿は混ざらないのかね」
「、集団の中は苦手なんだ」
「そうか」
これも一興。そう言って立派な背広を着たこの男は、半兵衛に背を向けて、一団の中に入っていく。皆それぞれに派手な衣装なので、たった一人のスーツ姿は悪目立ちしていた。男はあろうことか、踊っていた慶次の腕を掴んだ。音楽は止まないが、空気が静まった。慶次が嫌そうな顔をする。しかし男は楽しそうに、不適な笑みを浮かべていた。その手を引こうとする彼に、苛立ちを感じた。半兵衛は走った。慶次を引っ張り、腕にしがみついた。
「おや、機嫌が悪そうだな」
「放せ、慶次君から離れろ」
きっと睨み付けていた。男はそれでなお、楽しそうだった。それが、余計に腹がたつ。
「また会おう」
背中にもきつい視線を送って、半兵衛は慶次を引っ張った。泣きそうなほど歪む半兵衛を見て、慶次は困ったように笑った。
「悪い、みんな。俺、こいつとまわってくるから」
「慶次君……」
「綿菓子、買い直さなきゃだろ」
気がついていたらしい。恥ずかしくなったが、なんだか嬉しかった。




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楽譜。
色々30題其の22







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