神様、どうかお願い


最近、三成の元気がない。なぜだろうと必死に考えた結果、やっとわかった。
「三成、吉継とけんかしちゃったらしいね」
大谷吉継、今は病院にいる。三成はほぼ毎日お見舞いに行っていた。そこで何かあったのだろう。
薄っぺらい鞄を持って、家康は教室を出た。なんとなく、病院に行ってみた。
受け付けで病室を聞き出す。フロアの一番端の部屋、共同の部屋だが、なぜか大谷が一人で使っていた。患者が少ないのは、いいことだろうけれど、なんだか寂しい感じがした。
「ぬしが来ようとはな、予想外」
窓を開けているから、涼しい風が――訂正、強い風が入ってくる。カーテンがバタバタ揺れて、花瓶に差された花が今にも散りそうだ。
「さすがに閉めないか」
「これは失敬」
どこか馬鹿にしたような声で笑われた。家康が窓を閉めた。パイプ椅子を取り出して座っても、大谷はとくに何も言わなかった。
「三成に言われて来たか」
「違う。最近の三成、調子がおかしいからな、理由を聞きにきた」
ぎろり、と睨まれた。大谷のこれは、家康も苦手だった。
「なに、一言告げただけよ」
「なんて」
「毎日我に会いに来なくともよい、と」
三成は、来るな、と拒絶されたかと思ったのだろうか。
「やれ、困った」
「困ったな」
「ぬしのは違うな。喜べばよいではないか」
確かに、三成がお見舞いをやめれば、そのぶん家康は彼に近づける。これはチャンスか、と最初は思った。しかしダメだ、あの三成に、うまく近づけない。
「悔しいな、刑部には負ける」
「何を言うか」
大谷の本心はよくわからない。しかし、心のどこかで、三成を大事に思っているのだろう。今回のことだってきっと、必要以上に時間を割いてほしくなかったに違いない。あくまで家康の推測に過ぎないけれど。
がらり、と病室のドアが開いた。銀の髪の彼、三成が立っていた。手には一輪の花が握られていた。家康の姿を見るや否や、突っ掛かってきた。
「貴様、刑部に何用だ」
「三成よ、案ずるな、見舞いよ、ミマイ」
三成が押し黙る。大谷は彼にとって、唯一だった友人で、一番信頼たる人物だった。そんな三成を知ってか知らずか、大谷は平然と言う。
「あまり来るな、と言ったであろ」
刑部、と言い寄ろうとした家康を、三成が遮った。
「花、もうそろそろ、だと思った」
先ほど、強い風に散りかけていた花瓶の花を指していた。たしかに、花びらは今にも萎れそうだ。三成は黙って花を取り替える。その造作は意外にも繊細で丁寧だ。たった一輪でも、可愛らしい花だ。健気だと思った。
「……すまない、帰る」
必要以上の会話はなかった。肩を落として帰っていく三成を、家康は追った。また来る、と頭を軽く下げた。入院患者の大谷は薄く笑った。ここも、ずいぶんと、賑やかになったものだ。そっと手を伸ばして、窓を開ける。風はいくぶんか和らいでいた。花がまた揺れた。カーテンの向こう側に、家康と三成がいた。

何も言わないのをいいことに、家康は三成の隣を歩いた。歩幅をあわせる。家康と違って、三成の鞄は適度に膨らんでいた。
「刑部は、私が邪魔、なのだろうか」
彼が珍しく弱音をはいた、しかも家康の前でだ。もし元親だったら、うまく言えるのだろうな。
「刑部は、三成が大切なんだ。あいつのことだ、口に出さないだけだ」
「そうか、」
元気出せよ、とは言えなかった。
「なぁ、三成」
「なんだ」
「生物がわからないんだよな、教えてくれないか」
「……ふん」
半分、嘘、半分、本当。家康の精一杯だった。三成も気づいたらしく、仕方がない、と行ってくれた。ちょうど明日は休日だし、このまま豊臣家に止まってしまおうと思う。
「貴様は、変なやつだ」
「そうなのか」
「嫌なわけではない」
「、そっか」
不謹慎だけれど、やはり、大谷には感謝した。それでも、複雑だった。

「すまない」





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出口

大谷さんは入退院生活な豊臣家長男格、三成は優しい次男格、家康はご近所さんなノリ、元親は友人。




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