核心どころか、世界の輪郭にすら触れていない



「この問題は、」
「まず文型に慣れろ。難しく考えるなよ」
放課後の教室で、政宗は幸村に英語の指導をしていた。最近、確信した。幸村の「できる教科」は、国語(とくに古典)と体育のみで、英語はてんで駄目なのだ。彼の英語のテスト答案用紙を見ると、政宗は深いため息を吐いた。できるだけ易しく、分かりやすく教えるように心がけた。けっして、勉強が苦手なわけではないのだ。ただ、授業だけだと、理解が追い付かないらしい。
「政宗殿、この答えは、」
「Very good.大丈夫だ、当たっているから」
課題のテキストが終わり、幸村はほっとしたのか、ずるずると机に突っ伏した。毛先の跳ねた髪を、政宗がそっと撫でた。よく頑張りました、と児童を誉めるときのようにだ。まるで子供扱いだが、嫌な感じはしないらしい。幸村はこっそり、笑みを浮かべた。
「これで、某も、少しは英語の点数が上がるだろうか」
「Don't worry.俺が教えたんだ、絶対上がる」
「では、赤点は無さそうですな」
赤点という言葉を、久しぶりに聞いた気がした。自慢ではないが、成績に関して、政宗は上位にいる自信があるのだ。
「政宗殿は、お優しいな」
「優しい? 俺がか?」
「少なくとも、某には、優しい御仁でござる。そんな政宗殿を、好いております」
心臓に悪い、と言いそうになって、思い止まった。政宗も、幸村を好いている。だからこそ、放課後の貴重な時間を、幸村のために使っているのだ。しかし、彼はこう思う。互いの言う「好き」は、きっと別格なのだ、と。
「……帰るか」
職員室まで課題を提出しに行って、それから、まっすぐ帰ろう。それぞれ、別の帰路に着く。互いの気持ちは、互いに、知らない。





---------------

濁音




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -