無償の価値とか。 おや、めずらしい。 家康が見掛けたのは、あどけない顔ですやすやと眠る三成の姿だった。戦装束ではない、袴姿だ。無防備――とは言いがたい、その手にはぎゅっと刀が握られていた。そこはやはり彼と言うべきか。思わず苦笑してしまった。ここで寝首をかけるものは、なかなかいないのだろう。返り討ちに首をとられてしまいそうだ、怖い怖い。 ここは涼しい。風が気持ちいいし、ぽかぽかと日差しも温い。絶好の昼寝日和かな。 さて、このまま添い寝してやるのも悪くはない。しかし、それをしたら、誰かに怒られてしまいそうだ。それは勘弁したい。かといって、三成を放置するのも嫌だったのだ。 悩んだ末、家康は自身の羽織を脱いで、三成にかけた。これでよし。たったそれだけのことだが、家康は満足だった。 誰かが三成の体を揺さぶった。ぱちぱちと目を開く。誰かは、半兵衛だった。 「疲れていたんだ、屋敷でゆっくり休むといいよ。ここはもう冷える」 最近の三成は働きづめで、優秀なのはいいが、そのぶん心配も積もる。 申し訳ありません、と立ち上がる三成の肩から、明るい山吹色の羽織がずれ落ちた。身に覚えがない。 「それは、後で持ち主に返しておいで」 拾い上げた山吹の袖には、三ツ葵が刺繍されていた。徳川の家紋。家康のものだと気づくのに、時間はかからなかった。 「なぜ……」 本当にわからない。家康が、わからない。わからないことが気に障った。 ------------- このあと、三成はどかどかと家康のところに乗り込み、羽織を渡し、数秒にらんで、無言でどかどか帰ります。帰りがけ、大谷がヒッヒッ言ってるんだと思います。 そのうち、家三になるといいな。……ときどき、腐な自分が本気で嫌になるわ。でも、ちゃっかり、同士求む。 ← |