Call my name



「独眼竜の好きな人って誰なの?」
幸村の後ろで、慶次が政宗とお喋りをしていた。そこに耳を傾けながら、幸村は団子を食べ、茶を飲んでいた。あくまで、知らないふりをするのだ。興味がないふり、何も聞いていないふりである。そして聞こえてきたのは、なんとも慶次らしい一言だった。幸村の団子を持つ手が止まった。政宗の返答が、気になってしまう。ここで俺の名が出たら、嬉しい、と思う。しかし、それは恥ずかしい。言わないでほしい。けれど、他の名を出されたら、なんだか悲しい。どぎまぎする幸村は、落ち着かなくなってしまった。
肝心の政宗の返答はというと、いたって簡単なものであった。
「アンタには関係ないな」
言って、興が冷めたのか、政宗は茶屋を出ていってしまう。早足だった。幸村も慌てて茶屋を出て、政宗を追った。
残された慶次はといえば、変わらず相棒の夢吉と戯れていた。政宗の態度を気にする様子はない。その顔には愉悦が表れていた。
もしや、怒っていらっしゃるのか。いろいろ考えながら、幸村は政宗の三歩後ろを歩いた。どうしたらいいだろうか。それは、幸村の知るところにない。話しかけるべきなのか、しかし話題がわからない。隣に並ぼうか、いや、それは図々しい気がする。一人、音もなく、唸る。意味もなく、上を向いてみるが、空を飛ぶ鳥は、手助けをしてくれそうにない。当たり前である。
「さっきから、」
視線がきつい。言われて、幸村は素直に謝った。
「政宗殿、ひとつ尋ねてもよろしいか」
「どうした」
「先ほどの答え、お聞かせ願えないだろうか」
真剣な眼差しで聞いてくる幸村に、政宗は少々拍子抜けした。幸村が気にしていることに、気がつかなかったらしい。幸村も政宗も、互いに照れ臭い顔をしていた。政宗の力強い手が、幸村の頭をやや乱暴に撫でた。
「……幸村」
「はい」
「こーいうこった。わかったか」
「……伝わっておりますれば」








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