優しい表情をするのね



すみれが、小袖を乱しながら、町を走っていた。
「桐木!」
叫ぶ。相手は、暢気に団子をむさぼっていた。それがすみれの気に障った。
「兄者が呼んでる」
「行くわけないだろ」
桐木が兄を毛嫌いしていることは知っていた。しかし、すみれにはその理由がわからなかった。すみれにとって兄は、敬愛する忍びの師匠で、自分を育ててくれた人だ。血の繋がりはないが、そこにはたしかな絆があるのだ、とすみれは信じていた。
「お前は、楽で、いいねぇ」
楽なものか、今もこうして桐木を連れ戻すように雑用をさせられていれのだから。むっとして、団子を皿ごと取り上げた。あろうことか、桐木はにたにたと笑った。
「なんだ、食べたかったなら、早く言えばよかったのにな」
違う、そんなのではない。赤くなるすみれの持つ皿から、桐木は団子を一本つまんだ。そのまま、すみれの口許に差し出した。ぐいぐいと押され、やむを得ず口を開いた。みたらしがのった焦げ目も見事な団子は、甘すぎず美味しかった。
「あぁ、おいしいよなぁ、ここ団子は」
何気なく桐木が笑う。向こうの方を、青い空を見ながら。普段はあまり見ない、心から優しい顔だった。この忍びは、そのような顔もできたのか。
もしかしたら、気づかなかっただけなのかな。
そうして、すみれも、仕事を忘れていた。
「また今度な、次はお前も来るかい」
「暇ができたらね」
「つまらない娘だ」





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虫喰い






 

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