沈丁花は死に染まる

(大阪夏の陣)




永遠などは存在しない。完成したものは、朽ちていくだけなのだという。栄枯必衰とは、このことを言うのだろうか。
燃え盛る城の中を、淀殿は歩く。甲冑姿で、豊臣家当主秀頼と、歩いていく。場所は天守、かつての人が好んでいた場所だ。そこを、二人は果てる場所に選んだ。
「母上、千は……千は、無事に帰ることができたでしょうか」
徳川の妻を案じる秀頼に、淀殿はあえて何も言わなかった。ただ、強く頷いた。
ここで、果てる。豊臣は負けたのか、いや、負けていない。ここに誇りをもって、豊臣の生きざまを示すのだ。恥じることも、悔ゆることも、何もない。
腰を下ろす。刀の鈍い光、刃に顔が映った。
秀頼が先に、腹を掻き切る。豊臣の最期を見届けて、淀殿も、喉元に刃を突き付けた。
「……ご機嫌、麗しゅう、太閤様」
炎に包まれて、太閤の夢が、消えていった。
そうして、豊臣が潰えて、徳川の世が改めて始まるのだった。




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透徹



 

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