喩えぼくがどんなに君を想って泣いたとしても君はそのことを知らない


なんと不毛なことであろうか。それを嘆きつつ、忘れようと刃を振るうのだ。残酷なまでに、敵を薙ぐ。それが残酷だと思わなくなるまで。

「そんなの、忍びじゃないわ」
「へへっ、この木猿様だって、たまにゃハメを外すのさ」

けらけらと笑いながら忍び刀の血振りをする木猿に、くのいちは眉根を寄せた。らしくもなく、無駄に血を流してきた木猿が気にくわなかったらしい。それだけではない。

「木猿、何を無理しているの」
「無理なんざしてないさ。わしはな、ただ常に、感情を忘れたくないだけ」
「……悪いとは思わないけれど、」

木猿の嘘吐き。くのいちが言った。木猿は笑う。嘘を吐いたつもりはなかったんだ。
少し離れた場所から、彼女を呼ぶ声がした。ある男の、くのいちにだけの、優しい声だ。

「楠木だわ……」
「いってこいよ」
「でも……」
「みなにはわしが言っとくから、安心しとけ」
「……ありがとう」

くのいちは足早に楠木のもとへ向かう。その足音を、木猿は妬ましく思うのだ。浅ましいとも、思うのだ。

「木猿、ごめんね……」





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透徹
木猿の過去話でした。





 

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