2.偶然の初見


お市が長政と会う機会は、思ったよりも早く訪れた。屋敷の外を散歩していると、見覚えのない武士を見かけた。彼が、浅井長政だった。
「初めまして」
無表情のお市に対して、長政は堂々とした態度で挨拶をした。凛々しさとやわらかさを兼ね備えたような雰囲気を纏っていた。じろり、と相手を見定めるかのように一瞥してくるお市には、何も言わない。
「……市」
ぶっきらぼうに自身の名だけを言った。長政は、お市殿、と確認するように名前を呼んだ。涼やかな声だな、とお市は思った。客観的にしか感じていない。それが彼女の性分である。
それから、長くいることはしなかった。二三、言葉を交わし、お市は踵を返した。まだ嫁入り前だ、親しい間柄ではない。それに、市は理解している。これは政略結婚である。兄信長は近江を、天下を欲している。彼女の婚姻は、その準備に過ぎないのだ。
対して長政は、どう考えているのだろうか。着実に力をつけている織田家と婚姻による同盟を結ぶことができた。浅井家の当面の安全を喜んでいるのだろうか。
(別にどちらでも構わないけれど)
屋敷へと戻るお市の背を、長政は何も言わずに見つめていた。

「お市様、どこにいらしたのですか」
いつも通り、散歩だ。わかっているのに、わざわざ聞いてくるのだ。それがけの親しい侍女の癖だった。
「どうかしましたか、お顔がにこやかでございますれば」
確かに、気分はよかった。




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浅井長政登場。



 

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