1.お市の方様登場


尾張国那古野城城主、織田上総介信長。殿には、戦国一の美女ともいわれる妹君がおられます。もとより、織田家は美男美女の家系で有名ですが、なかでも妹君は、群を抜いての美しさを持っています。
名前は、市、と伝わっています。
「……信長様、お市様がいらっしゃいました」
「通せ」
小姓に案内されながら、信長の間に一人の女性がやって来た。彼女こそ、お市の方様である。百人いたら、百人全員が認めるだろう。間違いなく、彼女は美しい。
「ご機嫌麗しゅう、兄様。市めに何用でしょうか」
「急かすなよ。まぁ、ゆっくりもしてられんがな」
信長とお市。二人並ぶと、美しさはいっそう際立つ。
それはさておき、信長がお市を呼んだのには、訳があった。織田家に関わる、重大な話である。淡白なお市は、始終、顔色一つ変えない。声の抑揚も、少ない。
信長は、彼には珍しい咳払いをした。
「お市、お前に、結婚してもらう」
つまり、他家へ嫁ぐ、政略のためだ。この時代の武家の姫御前、ほとんどの場合は政略結婚だ。恋愛結婚はごく希である。その例外ともいえる夫婦が、実は織田軍内にいるのだが、それはまた別の話。
ちなみに現在、お市はいまだ未婚女性である。歳もまだ若いが、ここでの結婚は晩婚ともいえる。
突然に結婚しろ、と言われたのにも関わらず、お市の表情に変化はなかった。そうですか、の一言で済ませた。
「相手は誰だと思うか」
「別に、誰でもいいです」
「浅井備前守」
浅井備前守長政、近江の大名、浅井家当主の名前だった。それでもやはり、お市は、そうですか、と答えるだけであった。



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ミステリアス・ポーカーフェイスお市の方、見参。
史実捏造、市姫編、スタート。



 

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