さよなら孤独な世界


朝露が葉から滴る小さな音。それに混じり、人間の足音が響いた。
「おやまぁ、傷だらけじゃないの」
親もなく、食べるものもなく、誰かを頼るようなこともできず、まだ死んでいないというだけの現実。ぼろぼろの小袖姿の娘は、膝を抱えて、木陰に佇んでいた。場所は薄暗い印象の、気味の悪いような、そんな農村だった。そんな娘の前に、真っ赤な袴の女が現れた。いわゆる、巫女装束だった。神職者なのだろう、と思った。太陽の光を浴びていないかのように肌は白く、髪は艶のある黒色だ。このような場所には、ひどく釣り合わない。身にまとう雰囲気と、娘の直感が、違和感を感じさせた。
「ここらは、戦の爪痕が残りすぎとるわ。なぁ、娘よ」
ふふ、と上品に笑いながら、巫女は娘の前に片膝を着いた。目線が同じ高さになり、視線が交わった。巫女の端整で美しい顔が、娘の視界に入った。
「娘、死にたくないならば、」
その命を私に預けてみないか。
娘は意味を理解できなくて、ぽかんとしている。それはつまり、この女についていく、ということだろうか。
巫女は続ける。
「私は、そなたのような娘を探しておるのだ。そなたは美しい、そして強い顔をしている。死なすには惜しい娘だ。どうだ、私と一緒の道を歩かないか」
一緒、という言葉に、娘は惹かれていた。今、彼女は独りである。寂しい。それだけであった。そんなときに、巫女の誘いは、素敵な文句になった。
この女は、私を、悪いようにはしない。
差し出された手に、非常にゆっくりと、自身のそれを重ねた。娘にとっては、久しぶりの人肌であった。
「私は千代女。よろしく頼むよ、千比絽」




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narcolepsy

望月千代女という謎のくのいちについて
竹田信玄に仕えた、甲賀望月氏の女性。通称・歩き巫女の創設者。
千比絽は、創作。



 

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