この足は闇路のみを行く


「失敗しないでよね」
「なめるなって。お前こそ、ヘマをするなよ」
「わたしを誰だと思ってんのよ」
二人の忍びがいた。まだ若い。
二人が楽々と忍び込んだのは、どこかの武家屋敷だった。金と引き換えに、命じられた仕事をするために――
一人(桐木)は武器を持って屋根裏に入り、一人(すみれ)は誰もいない庭に身を隠した。
片手に握ったクナイ。研かれた刃には、毒が塗られていた。解毒できるのは、桐木だけだ。
そっと、屋根板をずらす。侍と小姓がいた。狙いは、侍の男のみである。
任務内容は、とある大名に仕える侍大将の暗殺だった。
落とされたクナイが、男に刺さる。当然ながら、男は倒れた。
突然崩れ落ちる主君に、小姓は驚いた。状況を飲み込むことができないでいるのだ。やっとのことで、他の家臣団を呼んだ。別室から駆け付けた者たちは、すでに事切れた殿を見るや、顔が青ざめた。
外はまだ薄暗い程度の、夕方だ。この刻に曲者が忍び込むとは、考えていなかったのだ。
そこに、外で物音がした。大きい音に、曲者だ、と刀の鯉口を切る。勢いよく襖を開ければ、男たちは一人の女を見た。そして、女の幻術に引き込まれてしまうのだ。
忍びの、罠だった。
「あそこに倒れているのは、曲者だ。あなたたちが斬った。殿は助かった。だから、持ち場に帰って、寝るんだ。また明日働くため、寝る」
男たちの目はうつろだった。女の言うことを聞いて、彼らは何事も無かったように去っていく。
単純な嘘を、真実とさせる。幻を、現実に見せかける。それが彼女の術。
すみれは幻術の成功を満足げに笑い、桐木は不服そうに庭へ下りた。
「相変わらずの実力だな」
「世辞は結構よ」
「だからだな。まるで、つまらん」
後者が本音であるようだ。退屈だと言わんばかりに、桐木がため息をついた。
それに対して、すみれは眉を潜めた。成功を第一と考える彼女にとって、充実感の類いは、どうでもいいことなのだ。思想感の違いは仕方がない。反論するのも面倒だった。
終わったからに、長居は無用である。
(毒の調合でもするか)
(兄者に稽古をつけてもらおう)
二人は同時に地を蹴った。葬った侍のことは、すでに忘れていた。彼らは武士などではなく、忍びなのだ。




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DOGOD69






 

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