一次創作
死人に口なし。
(2010/06/28)
(桐木とすみれ設定)
血の臭いがした。しかも、濃い。嫌な予感がして、その臭いを追ってみれば、予想通りの光景が広がっていた。
夜の闇は暗かったが、忍びであるすみれにはよく見えた。
切り刻まれた死体がひとつ、血を滴らせた刀を持った侍がひとり、興味本意に近づいてきてしまった忍びもひとり。
「……お侍さん、人斬りなの?」
突然現れた少女に驚く様子もなく、侍は刀を振った。さらに血が飛び散る。
「残念ながら、違うぜ、お嬢さん。ただ、追っ手を切り捨てただけだからな。それに、侍でもない」
「ふーん……」
無惨な姿になってしまった男は、どうやら追捕士か何かのようだ。
「かくいうお嬢さんは、くのいちか」
「うん、報酬さえもらえれば、どんな仕事でも引き受けてる」
「そうか、そうか」
侍がにやりと笑った。袂を漁ると、すみれに小さな包みを投げ渡した。なかに入っていたのは、金平糖だった。すみれは、ムッとした。
私を馬鹿にしているのか。
「わかったら、おとなしく家に帰りな。ヤサシイお兄ちゃんが待っているんだろう」
言うなり、侍は小道を駆け出した。
すみれは追うことはせずに、金平糖の包みをキュッと握りしめた。
そういえば――
(なんで、私に兄がいるとわかったのかな)
まもなく、死体はすみれの兄が片付けた。
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すみれの、昔のお話。
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