蜀の和気藹々
英雄と皇子様と

(2010/06/25)




「おい、子龍」


不遜な呼び掛けとともに、趙雲は後ろから服を引っ張られた。彼の周りでこのような態度を取るのは、一人しかいなかった。
趙雲よりもずっと小さな背丈の子供だ。阿斗様、君主劉備の子である。


「阿斗様、どうされましたか?」
「朕と遊べ」
「…………」
「なんでも良いぞ、子龍に選ばせてやる!」


口調は少々難があるかもしれないが、根は優しい子である。若干ずれているけれども。


「申し訳ありません。これより、馬将軍と鍛練の約束があり……」
「そ、そうか……」


理解した素振りの阿斗様だが、実際は、まだ諦めきれないようである。
さて、困ったな。子龍は向こうを見た。本音を言えば、阿斗様を優先したいのだ。しかしその後が、大変なのだ。
そこへ救世主――ではなかった、奥の方が現れた。


「これは、阿斗様に趙雲殿ではありませんか」


劉備の正妻、甘白寧である。もとの身分を感じさせない、我らが女王様でもあったり。働く女王様、だ。


「阿斗様」


ぴしゃり、と名だけで牽制した。阿斗様は、はい、と背筋を伸ばした。


「あまり、父の将軍を困らせてはなりませんよ?」


――よろしくて?


結論、彼女には誰も逆らえない。





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阿斗様の紹介、と思わせて、実は、甘白寧の紹介。

甘白寧(カン ハクネイ)
劉備の正妻、甘夫人のことだよ! 名は創作。高飛車ではないよ!




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