蜀の和気藹々
諸葛亮さん家と趙雲の雑談

(2010/05/27)



「私の妻、ですか……」
「はい! そろそろ私も花嫁修行をしなくては、と思いまして……」
「順番が違うような気もしますが……」


まぁ、細かいことは気にしては駄目ですね――
珍しい組み合わせの二人がいた。軍師・諸葛亮と、趙雲の妻・馬雲緑である。


「私の勝手な想像ですが、孔明さまの奥方さまですから、すごく聡明で美しい方なのでしょうね」
「あー、雲緑殿は、蜀にいらしたばかりでしたね……」
「?」


諸葛亮が困ったように微笑した。雲緑には、その意味がまだわからなかった。無理もない。諸葛亮は咳払いひとつで表情を改めた。


「実はですね、私の妻は、まれにみるほどの醜女であり、人前に出るのを嫌がるのです」
「…………」


実際、これは蜀の多くの者が知る事項である。噂で広がっている話だ。
これには雲緑も嫌がるだろうと思った。大体の人は、美しきを好み、醜きを嫌うのだ。
しかしながら――


「容姿って、気になるものなのでしょうか……」


この時代においては、珍しい価値観の持ち主であるらしい。





「――ということがあったのですよ、子龍さん」


雲緑殿は仁の方なのでしょうね、というと趙雲は照れたように目を伏せた。
場所は諸葛亮の邸で、趙雲は雲緑に内緒でここを訪れていた。無論、初めてではない。


「ところで、どうするのですか。僕はいっこうに構いませんが」


「わたしも構わないのですが」


香ばしい匂いの茶を運んできた、噂の人物だった。
誰しも、最初に見た人物は、驚くだろう。仮面をつけた女が給事をしているのだから。しかし、その仮面も、趙雲たち親しい者の前ではさすがに後ろに向いている。真実は、美女である。赤みがかったきれいな髪色が彼女の魅力の一つだ。


「こんにちは、月英どの」
「お久しぶりにございます、趙将軍」


月英はきれいに頭を下げた。行動一つ一つが丁寧である。そこは、雲緑に見習わせたいところだろうか。


「武に長けた馬雲緑殿……、かねがね噂は耳にしております。わたしも、見習わなければなりませんね」


妻を誉められて嬉しい反面、月英にはそのままでいてほしいと思う。そんな趙雲に、諸葛亮も同意した。


「月英は今のままでも十分過ぎるくらい素敵だよ。あまり無理はしないでね?」
「孔明様がそう仰るのならば……」


趙雲は一つ学んだ。女性って、こう口説けばいいんだ。自分で思って、羞恥が顔に現れた。熱い熱い。
諸葛亮も、とくに口説いたつもりはない。




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初登場、諸葛亮の妻、黄夫人! ここでは、わかりやすく、月英です。
仮面美女なギャグ担当です。
「織田家の日々然々」でいうところの、お市の方のポジションです。未登場だけれど!




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