一次創作
飛び六方の、

(2010/05/11)

(「くのいち、いざ参る」続き)





くのいちである六花に連れられて、不本意ながら才蔵が訪れたのは、紀伊国であった。九度山の山嶺にある小さな村に、その屋敷はあった。武家屋敷にしては質素で侘しい。考えなくても分かってしまう、ここは流された浪人の住まう屋敷であろう。才蔵は忍者らしからぬ、大きなため息を吐いた。
おいおい、まさか、この俺に浪人の下で働けと言うのか。


「……色男はため息も絵になるからムカつくわね」


今はどうでもいいことを六花が言う。自分たちの領域に入り安心しているのか、はたまた単に性格ゆえか。いずれにしろ、才蔵はこのくのいちと仲良くするのは無理だと思うのだ。もとより、他人と馴れ合いをするつもりはない。あくまで一匹狼で実力主義の忍びなのである。


「……帰りたい」
「あんたに帰る家なんてあるの?」


あるわけがない。


「ふふん、寂しい男ねぇ、霧隠才蔵」


なら、ここを家にすればいい。
六花がいやらしく笑った瞬間、才蔵がいた場所に、手裏剣が刺さった。才蔵は反射的に避けることはできたが、相手を見定めるまでには時間がかかった。
堂々と現れたのは、背丈の低い、幼い少年であった。意表をつかれ、才蔵は反応に困っていた。
少年は、才蔵や六花と同じく、忍びである。年齢は彼がずっと下ではあるが、実力は二人と同等、もしくはそれ以上だ。
にぃ、と可愛らしい笑みを浮かべると、少年は才蔵の視界から消えた。飛んで、才蔵の背中に回っていた。突きつけられたクナイを、才蔵は咄嗟の体術で弾いた。弾かれたクナイは、木に刺さった。


「その技、知っているぞ。まさかな、お前のような小僧が使うとは思わなんだ……」
「小僧っていうな! 俺は佐助という!」
「……飛び六方の、猿飛、か」
「あたりだよ、二代目猿飛、名乗らせてもらってるんだ」


目の前には、まさかの甲賀流の忍び――
伊賀忍である才蔵は、げんなりとしていた。甲賀者に、しかもこんな子供に、遅れをとってしまった。悔しい。


「……そういえば、六花、お前も、」
「望月氏傍系の姫よ、私は、おーほっほ」


うるさい、黙れ、田舎者。
いくら悪態を吐いても、無駄なのである。わかってはいても、止められない。
才蔵は頭を抱えた。
さらに「この男」の登場、才蔵の未来が、少しずつ変わりそうである。


「何を騒いでいるのだ、忍びどもが」


六花が明るい声で名前を呼び、男の傍へ駆け寄った。しかし、一蹴されていた。
――ありえない
一言、ありえない、と思った。六花もありえないが、男もありえない。


「待っていたぞ、霧隠才蔵」


今からお前は儂の忍びだ。
逃げられる気がしなかった。





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ぐだぐだー。直せないーorz

「飛び六方」は、宮本昌孝氏の「風魔」を参考にさせていただいております。
うちの佐助は、自由に飛び回っているだけです。身軽だから。




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