一次創作
少女は神に恋した

(2013/05/03)

空想アリア

新しい聖女として森にやってきた少女ときたら、これは先代、先々代に負けぬとも劣らない厄介者だ。三常侍の一人、フリュイは神の御前で、堂々と彼女を笑ってみせた。その御神といえば、フリュイの嘲笑を気にも留めず、心非ずというように空を見ていた。なんということだ。憂うべき事態だ。
御神と聖女の仲介役を請け負うパピロンもまた、浮かない顔で竪琴を触っていた。ぽろんぽろんと音が鳴るたび、ボンが苛立たしげに地面を蹴りつけていた。「汚れた奏者」を連想させるのだ。今はいないあの騎士を、ボンもフリュイもよくは思っていなかったし、それは今でも変わらないことだろう。逢いたい、逢いたい、でももう逢えない。御神なら、と考えて、やめた。パピロンは竪琴を離した。
「ちょっと、席を外します」
そう言って立ち上がり去っていくパピロンを、御神も天使も見ていなかった。

ここに前任の聖女であるリヴィエールが眠っている。自ら斬りつけた女性だ、御神の愛を受けつつ拒んだ女性だ、妬ましい女性だ。忘れるはずがない。フォンテーヌは細身の剣を肩に乗せながら、それを見下ろした。どうしても足を運んでしまうのは、彼女が今でも御神の心を占めているからだろう。聖女は、御神に仕える代表者は、フォンテーヌであってリヴィエールではないというのに。彼女のせいで、フォンテーヌは御神に逢えない。逢いたいのに、お慕いしているのに。
「可哀そうな娘、あなたもリヴィエールの被害者ね」
黒い蝶の羽が見えた気がした。振り向いても誰もいない。
誰かから聞いたことがある。この森には異端の妖精がいるらしい。いつかの聖女に気に入られた黒い羽の妖精は、今も森で動き回っているらしい。
(暇なことだわ)
「暇なことですね」
今度はちゃんと誰かがいた。ローブから覗く顔は非常に見知った天使だ。
「何度も何度も、あなたはここに来る。おかげで、あなたを探すのも簡単なのですがね」
それは嫌味なのだろうか。しかし、それならそれで、フォンテーヌにも言ってやりたいことがあった。
「ここに集まるのは、あたしだけじゃないでしょう」
変わらない表情のまま、パピロンはフォンテーヌを見ていた。

御神に逢いたい。だからリヴィエールが疎ましい。
バームに逢いたい。だからリヴィエールが妬ましい。




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