一次創作
時代の迷い子たちへ

(2013/02/08)

番外編「北山睦月(ばしょん)の場合」



睦月の手元にあるのは、先ほどのガイダンスで配られたプリント数枚。見出しには、大きく「就職活動」と書いてあった。ため息しかでない。ついにこの時が来てしまった。大学三年目の冬、睦月の悩みがまた増えていく。
就活? 希望企業? 知らないな。
「おい、北山、髪は染めとけよ」
茶髪は、駄目だった。

リクルートスーツにコートを着た昭子を見て、睦月は思わず立ち止まった。似合いすぎる、かっこいい。
「よ、よぉ、女帝。女帝はこれから就活なのかい」
我ながら吃り過ぎた。近くで見ている友人たちがクスクス笑っていた。「むっきー、相変わらずヘタレだな」。誰だ、ヘタレだとか言ったやつは。悔しい、言い返せない。
「就活は、しない予定だ。教員試験一本に集中したい」
家庭教師のバイトなのだという。それにしても、ビシッと決めすぎではないか。怖いという印象はないが、厳しそうだ。実際は、実に分かりやすい指導で生徒からも保護者からも慕われている。さすがだ。
昭子にはぶれない目標があって、睦月はそれを羨ましく思った。何にしても、いまいち落ち着かない自分とは違う。そんな昭子に、憧れてもいた。
嫉妬はしない。昭子は睦月にとって支えなのだ。
やっぱり好きだ、そばにいれたらいい、と言えない自分にため息を吐いた。
「……睦月」
「ん?」
「睦月なら、遅かれ早かれ、いいとこに決まるよ」
正直に言おう、きゅんときた。
冷めた顔でこっちを見る学友のことなど、睦月は見えていなかった。

きゅんとしようがしまいが、就活は逃げられない現実だ。働かないわけにはいかない。
ここは国立K大、ネームバリューはある。武器だ、これは立派な武器だ。使えばいい。
時間はまだある。大丈夫だ、やれり。
慣れないリクルートスーツを着て、睦月は家を出た。
「やべぇ、睦月センパイ、似合わねぇ!」
偶然出くわした男子高校生に、睦月の豆腐メンタルがもろく崩れた。





ポケットに拳銃




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