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ロストチャイルド

(2012/12/11)




フランシスはきれいだね。
誇れる美しさの称賛は、数えきれないほど言われてきた。それは至極当然だとも思ったし、もっと誉められたくて努力もした。けれど、今、目の前の男の吐いた台詞は、恐怖でフランシスの体を凍らせた。
同じブルーの瞳も濁って見える。のそりのそりと花束を手に、近づいてくる。壁際に追い込まれて、フランシスはがくがくと震え出した。怖い、助けて。こんな視線、フランシスは知らなかった。
嫌がるフランシスを尻目に男の手が着衣を乱した。拒もうとしたら甘ったるい花束で殴られ、腕を拘束された。直接肌に触れてきた手の感覚に、吐きそうになった。

助けて、助けて。
「何やってんだ、てめぇ」
男の体が倒れたかと思うと、フランシスは細いくせに力のある腕に抱き込まれていた。腕の拘束を外されて、自由になった手は、相手の背に回した。
「アーサー」
震える声で名前を呼ぶと、急に安心して力が抜けてしまった。

フランシスを襲った男を警察に任せ、二人は急ぎ足でアーサーの家に入った。
ソファに座ったフランシスは珍しいくらいに静かだった。両親不在の広すぎる家は何か重たい空気が流れ、キッチンでお湯を沸かす音だけが目立っていた。
湯気のたつカフェオレをテーブルに置き、アーサーはフランシスの隣に腰を下ろした。
ふんわりとした髪が、アーサーは昔から好きだった。自分のとは違って絹みたいに柔らかで、おとなしく触らせてくれることも嬉しかった。
指に髪を絡ませてから、戸惑いながらも、いつもされるように頭に手を置いてやると、フランシスの涙腺が緩んだ。栓が外れると、なかなか止まってくれなかった。
嗚咽をこぼしながら泣くフランシスを、アーサーは初めてみた。いつもなら年下のアーサーが、こうして慰められるのだ。
「俺、俺、あんなやつに、」
「何も言うなよ」
「アーサー、ごめん」
「なんで謝るんだよ」
気持ちの整理がつかないのだ、と思った。それも至極当然なことで、悪いことなどではない。互いに素直ではない。だからこそ、こんなときくらい、相手に寄り添っていたかった。
好きなだけ泣けばいい、俺しかいないから、からかったりしないから。
泣きじゃくるフランシスを宥めながら、アーサーはほんの少しの優越感に浸っていた。
フランシスが自分の腕のなかにいる。遠くない、昔、フランシスの腕のなかにいた子供の頃とは、もう違うのだ。




Summer




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