一次創作
朝直しせん

(2012/03/13)



むくり、と起きた遊女は、さっと着物を直し、寝乱れた髪を結った。鏡台は確かそこらへんにあったはずだ、と探す女の着物の裾を、夜着の中の男が掴んだ。
「……離しとくれ、旦那」
ぺしんと遊女がその手を叩くが、男はそれを楽しんでいるようだった。揚屋で一夜を過ごした遊女は、早く休みたかったのだ。いつまでもこの男の相手をしていたくなかった。
「つれないことを言うものではないぞ、月川。もう少し、もう少し」
「勘弁しとくれよ、わしは無理、もう旦那には付き合っていられぬ」
「ほんとに、つれないの」
「……旦那は、困ったお人じゃ」
余裕綽々と、裾を掴んだまま笑う男に、遊女はわざとらしく大きな溜め息を吐いた。陽の光が優しく遊女の肌を照らす。男の愉快そうな顔が、遊女には憎らしかった。

お嫌なら、追い出せばいいのではないでしょうか。訛りのあるしゃべり方で、新造が言った。
「月川姐さんは位も高く、旦那様よりも上位でしょう。お気に召さないようでしたら、相手になさらずとも良いと思います」
「そうかいな、綾里はん。志摩屋の若旦那、名代でお相手させてもらった時には、そんなに嫌な人とは思いませんでしたわ、あっしは」
「これ、綾里、薄野」
口論に発展しかけない新造二人を、月川は黙らせた。口を動かす前に手を動かしなさい、と。姐さん遊女に咎められ、二人は琵琶をまた弾き始めた。それに合わせて月川が舞をする。上位の花魁なだけあって、その腕は確かだ。舞だけなら、この店一の実力だと主人が言った。稽古に一区切りつくと、新造はまた話し始める。
「結局のところ、月島姐さんは、旦那のことをどう思うていらっしゃるのです」
「あっしも気になりますわ。姐さんが域な旦那としてお認めになった方なんしょ。それなのに、何でそうたに気落ちしていらっしゃるのか」
二人で勢いづく新造に、月島は眉根を寄せた。お喋り好きだこと、と叱りつけても、彼女らは反省しない。傷つけて裏に下げてやろうか。あいにく、面倒見がいいほうではない。
強いて答えを言うのであれば、それは依存であろうか。月島は認めたくないが、志摩屋の若旦那に惚れているらしい。自分がどう言おうと、あの人はまた会いに来てくれる、と思っていた。もしかしたら、もしかしたら、旦那のすぐそばにいられるようになれるだろうか。そんな淡い希望を、月島は自ら否定する。ただ、遊女を買いに来ているだけだ。悲観して、男にも冷たく接するようになった。




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面倒になってボツ




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