aph
あなたは美しい

(2012/01/28)



「お母様は美しいものを愛しておられたわ」
「そう」
「醜いものはお嫌いだったの」
「へぇ」
「私も美しいものは大好きよ」
「俺も美しいものは大好きさ」
「あら。やっぱり私たち、うまくやっていけそうね」
王妃のお喋りの相手を、フランスは楽しんでいた。快活な彼女は、良いことも、悪いことも、よく喋った。ハプスブルク家のことや、祖国オーストリアのことを、フランスは毎日のように聞いた。今日は何の話をしようかしら、と最初に彼女が言うときは、大抵すでに決まっているのだ。

「やあ、マリー。今日も美しいね」
「当たり前よ。お母様だって、それをわかっていたから、私を陛下に嫁がせたのよ」
本当に、彼女は美しかった。彼女の美へのこだわりは、周囲の者を驚かせていた。
「その青い瞳も、金の髪も、赤い唇も、すべてが美しい」
「ありがとう、フランス。けれどね、あなた、知っているかしら。私にだって、あなたの考えていることはわかるのよ」
不適に笑う王妃に、フランスはどきりとした。あぁ、まさかな。焦るフランスを他所に、彼女はいつものようにお喋りを始めた。今日はお菓子の話だった。うっとりと話す彼女に、フランスは次はデサールを用意すると約束した。

絶対王政が揺らいでいることを、王妃は知っていたのか。王が処刑されてからまもなく、彼女も捕縛された。牢の中でも、彼女はやはり美しかった。フランスが会いに行くと、彼女はまた笑った。
「久しぶりね。やはりあなたは美しいわ」
「そうだろう。俺は美しいんだよ、だってあなたがいるのだから」
「わかりやすく言ってちょうだい」
「いつも美しいんだね、マリーは」
「もちろんよ」
いつものやり取りだった。そして彼女のお喋りが始まるはずだった。
「結局、あなたは何が美しいと思っているのかしら」
もちろんあなただと、答えれば良かったのだ。フランスは、それをしなかった。たしかに、彼女は美しかった。身なりも、声も、仕草も、申し分ない美しさだった。しかし、フランスは満足していなかった。何か、他の、美しさを知っている気がする。それが何なのか、思い出せないのだけれど。
「私ではフランスを納得させられなかったということね」
さようなら、近々もう一度会えたらいいわね。
彼女はフランスにそう告げた。

王妃の処刑日、フランスは歓喜に湧く一方で、一抹の寂しさを感じていた。
美しい人が、俺を愛してくれる人が、また一人、死んでしまった。




|

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -