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想いはいつか・弐【黒天の星】

(2010/04/21)



『政宗様は、ご満足できていないのでしょう』


数日前、床の間で交わした会話を思い出していた。同時に痩せこけた家臣の姿まで見て、唐突に胸の痛みを感じた。この痛みは、なんというの? 教えろよ、小十郎――


『先の戦いは、まみえることもなく終わってしまった。このままでは、お心も晴れますまい』


その通りだ。右目の名は伊達じゃない。よく分かっている。


『納得のいく戦いをしてきてください。この小十郎、政宗様の御武運を、お祈りしております』


それが、片倉小十郎との別れになる。かろうじて動いている心臓だ。そう遠くないうちに止まってしまうのだろう。
大事な時に限って、傍に寄り添えない。何よりも、それが小十郎の後悔だった。
悲しみにくれる暇もなく、奥州伊達軍を率いて、伊達政宗は大阪へ出陣する。
彼の最大の目的とは――わざわざいうまでもなく、宿命の好敵手との最終戦だった。
政宗は徳川について東軍、相手は豊臣について西軍。
愛刀である六の刀を握る手が、わずかに震えていた。政宗自身、気づいていなかった。


初めて出会ったのは、たしか川中島だったと思う。互いの胸が熱くなった。運命の邂逅だった。
あれから長い月日が経った。しかし、いくつ年を重ねても、想いが褪せることはなかった。
たまに考える。もっと他の出会い方はなかったのか、と。刃を交える以外に、選択肢は無かったのか、と――
共通の敵もいない今、敵同士となった。ならば、好敵手同士、最後の戦いを楽しむまでだ。
これでどちらかが死のうとも、後悔はしない。


――ほんとうに?


「Shit!」


政宗は前髪を掻きあげた。
ここは戦場だ、迷うな、迷ったら討たれるだけだ。
唇を噛み締める政宗の傍らに、三傑の成実と、右目の嫡男である重綱が控えている。二人は政宗の心中を察してか否か、何も言わず、無言を貫いていた。





「父上ならば、お屋形様に何と仰るのでしょうか」


政宗が仮眠から目覚める前に、重綱がおもむろに口を開いた。成実は解らないと一言で答えた。解らないものは解らない。それ以前に、興味がない。そう言いたげな表情をしている。


「藤五(成実)様ならば、と思いましたのに」
「重綱……、僕が景綱を好いてないことを忘れたのか?」
「……失礼しました」


実子の前でそれを言うか、とも思ったが、口に出せば、恐ろしい睨みが返ってくると察して思い止まった。それに、父のことを何と言われようとも、重綱は気にしない。ただ、我らがお屋形を理解し、助けられるのは、父一人であると考えているのだ。


「まぁね、安心しなよ、重綱。僕たちの政宗様は、そんなに弱い人じゃないよ」


それもそうだ。相手は奥州の覇者、独眼竜伊達政宗だ。





黒天の星





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黒天→黒色、星→輝く金色 =伊達政宗。bsrだと、染衣装のことか。




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