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だぁれも居ない筈の部屋の中
(2012/01/22)
すんすんと子供の泣く声が聴こえて、イタリアはびくびく怯えながら部屋に入った。薄暗いこの部屋は埃っぽく、書架に指を滑らせるとねずみ色の煤がついた。
「ねぇ、どこにいるの?」
子供の姿が見当たらない。イタリアは探すのを諦めかけていた。気のせいだったのだと思えば、納得して、部屋を出られる。忘れるまでに、そう時間はかかるまい。イタリアがきびすを返したとき、泣き声の中に、悲しげな声が混ざって聴こえた。
――泣くな、泣かれたら困るんだ。
二人の子供がいるのだ。こんな部屋に、子供が隠れているなんて。
――だって、またさよならするしかないんだよ、悲しいよ。
――しかたないだろう、頼むから、わかってくれ。
――わかりたくないよ、もう嫌なんだもの。
――そんなの、俺だって一緒だ。
別れ際の二人の会話に、イタリアは耳をそばだてた。
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吐く青
ぼつ
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