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ときに愛は世界を巻き込むらしい

(2012/01/02)

英仏




「突然ですが、恋人はいますか?」
いわゆる街頭インタビューであり、笑顔をつくって唐突に話しかけてくる女性リポーターは、それが仕事であるからして、別に他意はない。東京を歩く見るからに外国人のブロンドを、珍しく思ったのかもしれない。外国人インタビューでもないし、「この人は放送で使えるかも」などと思ったのかもしれない。何度も繰り返すように説明する、自ら彼女に近づいたわけではない。偶然にも、彼女(とカメラマン)の目に留まってしまった、それだけだ。隣で日本がおどおどしていた。どうするべきか、イギリスは彼を困らせたくなかった。だから、きっぱりと、こう答えた。
「いるぜ、とびきりキモいやつが」
隣で間近にそれを聞いた日本は、その衝撃を忘れない。

「どこの世界に、公共の電波で恋人を迷わず『キモい』と表現するやつがいるんだよ」
しかも、とびきり、だってさ、強調しやがった。
折り悪くも、フランスは日本にいた。かくして、イギリスのインタビューでの発言は、簡単にフランスの耳に届いてしまった。
Q.結果、何が起こったの?
A.イギリスとフランスの間に会話なし。
Q.仲直りしないの?
A.「本人たちに聞いてください、えぇ」
日本はフランスにコーヒーを淹れて、テレビは消した。外から入ってくる町の音だけが聞こえた。
「いくらなんでも、ひどい話だよな」
さすがのフランスも、落ち込んでいるらしい。意外と言えば礼儀を欠くが、繊細な愛の感覚の持ち主なのだ。同じように愛情を大切にしているイタリアが相手であれば、日本はいくらか気楽だった。彼は素直で可愛らしい、助言もしやすいというものだ。ドイツも同じような感じだ、生真面目だが、実直で話しやすい。アメリカは、あぁ、知らない。ハンガリーは……、言わなくてもいい。
納得のいかないらしいフランスに、日本は菓子を出した。とりあえず、言いたいだけ言わせてあげるべきだ、と思った。最近の彼は、聞き上手だ(ことごとく運はないけれど)。ちょうど、ドイツからもらった菓子があった。一人では食べきらないし、好都合だった。
フランスは焼き菓子に手を伸ばして、口に入れかけて、それをじっくりと見ていた。
「ドイツの、か、これ」
「はい、そうです。よくわかりましたね」
「うん、食べ慣れてるからね。仕事でよく行き来するし」
さくさくと食べながら、おいしいよな、とフランスは言う。それには、日本も同意だ。
「フランスさんのお菓子も、好きですよ、私は」
「ありがとうな、日本。日本の料理も好きだな。あ、もちろん、負けないけど」
日本がある数においてフランスを上回ったのは、記憶に新しい。悪気はなく、楽しそうに小突くフランスに、日本は苦笑した。
「俺、日本やドイツの恋人になりたかったよ」
聞いてはいけない一言を聞いた気がした。日本の表情の変化に気づいたフランスは、あわてて、ごめん、と言った。日本もフランスの心情を心得ているので、謝る彼を責めたりはしなかった。
「ごめんな。ただ、日本みたいな気遣いが、ほしくなったよ」
彼が落ち込んでいることは、すぐにわかった。すでに先ほどまでの怒りは感じられない。悲しかったのだろう。名前をしゃべるわけではない街頭インタビュー、少しは誇ってほしかった、無論、いい意味で。
「イギリスの、ばか……、もう知らね、くそ」
日本は、ぼんやりと、イギリスさんのツンデレは困り者ですね、と呟いた。

「完璧、出られなくパターンっすね」
「困ってるみたいヨ、どうしたらいいかナ」
「ほっとくか、からかうか、の二択だって」
「うーん、助けるっていう選択肢はないんだネ」
「もちろん的な」
日本の家の前に、おどおどとイギリスが立っていた。何があるのか、と台湾と香港が裏から回ると、なかには日本に愚痴をこぼすフランスがいた。それでだいたいはわかってしまった。
「香港、英国さんのこと、どうすればいいかナ」
「無視すればいいんじゃね?」
「なるほどー」
「……お前のいい人っぷりも、感心する、いい意味で」
首をかしげる台湾に、香港は、何でもない、と返した。





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イギリスが暴走しすぎ、ぼつ




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