一次創作
向日葵咲く窓辺に寄せて

(2010/03/11)

(現代)



 白い。
 白色とはつまり清潔を感じさせる色だと、俺は思っていた。
 夏。
 女子のブラウスから透ける下着。高校生、夏の風物詩。
 白い生地+控えめな柄。うん、最高だ。絶対に誰にも言えない、俺の趣向。
 そんな戯言はとりあえず終わりにしよう。
 さすがの俺も、ここの白色は好かない。
 まずはここがどこかを、はっきりさせることにするか。廊下を歩いているのは、パジャマ姿の子供から老人、清潔感あるワンピースみたいな制服にカーディガンのお姉さん(美人はいるけれど、ミニスカさんはさすがにいない、残念)。つまるところ、ここは病院だ。
 なぜ俺が病院にいるのか。
 間違わないでほしい。別に俺がお世話になっているわけじゃないからな。俺の幼馴染みの見舞いに着ただけだ。そう、見舞い。それだけだ。
 ネームプレートは一枚だけ。
 日向美黄
 個室だから、美黄しかいない。なんだかちょっと寂しい部屋。
 礼儀には煩い美黄は、ノックを忘れれば説教を始める。以前のあのくそ長い説教は身に染みたぜ。ドアの前で立ち止まり深呼吸。落ち着けよ、自分。三回ノックしてから部屋に入る。よし、ここまではオーケー。
 ベッドの上で読書に更けていたらしい美黄は、テーブルの上に本を並べていた。太宰に芥川に直木か……。メジャーだな。
「彰親……? 部活はどうしたのさ」
 開口一番はそれか。他に「こんにちは」とか言うことはないのか。比較的真面目な女なんだよな。
「引退した。所詮弱小プレイヤーなんだよ、俺は」
 つい先日までテニス部に所属していた。ダチと組んだダブルス。最後の試合は俺のミスで終わった。というよりも、始終ずっと俺のミス。部活という青春ドラマはあっけなく幕を閉じてしまった。ダチは「最悪だ」と言った。直接言葉にはしなかったけれど、明らかに俺を怒っていた。申し訳ないとは思いつつ、それどころじゃなかったんだという言い訳。
 あの試合の日の朝、俺の家の電話が鳴った。出たのは俺、掛けてきたのは美黄の母親。すぐに母さんに代われという焦った声。おばさんなりの試合を備えた俺への気遣いだったんだろうけれど、そんなのは隠す前からバレバレだ。美黄に何かあったんだ。だから、あの日は試合に集中できなかった。
 これも言い訳に過ぎないけれど、気持ちくらい分かってほしい。
「謙遜もほどほどにね。ほら、リンゴやるから、元気だそう」
 何が「やる」だよ。果物ナイフに果物の入ったバスケットが差し出された。つまり皮を剥けっていう命令じゃねーか。
 長い付き合いだからわかる。これは「お願い」じゃなくて「命令」なのだ。おとなしく従う俺。しようがない、相手は美黄だ。
 お望み通り、まずはリンゴ。出血大サービスのうさぎちゃんだぜ。けっこう器用だろう。自分にあっぱれ。
 紙皿に並んだうさぎリンゴ。爪楊枝で刺して、美黄は食べ始めた。おいしいよな、リンゴ。ついでにオレンジも向いた。
「彰親、茶がない」
 人使いが荒い。これも美黄か。
 俺がお茶(何の変哲もない緑茶ね)を淹れている間、美黄の視線は窓辺の花瓶に向けられていた。カーテンの手前、大きな黄色い花を咲かせた向日葵が一輪。白を背景に、鮮やかな黄色が映えている。向日葵は美黄が好きな花だ。名前の由来にもなっているこの花を、これ以上ないくらい好きならしい。
「……お前は、最近どうよ」
「どうもこうもない。相変わらず最悪だよ」
 入院患者に聞くのもおかしかったか。
 最悪なのは外で体を動かせないから。のびのびしないから。
 もとは体育会系の少女だったんだ、美黄は。それが今ではこの姿だった。病気のことではなく、美黄自身のことだ。




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半年以上前に放置したボツ。
書ける気もしないし、書いてはいけない。



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