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アダムの杯は真っ逆さま

(2011/09/06)

大王×ユールヒェン
すごく不健全





気持ち悪い夢を見た。大好きな王に、愛された夢だった。今までに見たことのない顔をした王が、自分を押さえつけていた。それを受け入れてよがっていた自分が気持ち悪かった。ベッドの上で、ユールヒェンは自分の胸に手をあてた。心臓はいつもより速く拍動していた。汚い女だ、私は。頭をかき抱いて、嫌な汗に不快感が増した。ベッドから降りて、寝間着を脱ぎ捨て、シャツを羽織った。今日の私はおかしい、気がおかしい。
軽く衣服をまとって、ユールヒェンは部屋を飛び出していた。何人もの人が振り返ったが、気にしなかった。
ざっぱりと、水を全身に浴びて、ユールヒェンは頭を冷やそうとした。けれど、嫌な妄想は消えてくれなかった。叫びたくなって、冷えた体を抱いて嗚咽が漏れ始めた。
「ユールヒェン?」
あ、と小さな声が漏れた。おそるおそる振り返ってしまったことを、ユールヒェンは後悔した。

使用人の手も使わず、王はユールヒェンの濡れた体を労った。今ユールヒェンが羽織っているコートは王のもので、彼女には十分過ぎる大きさだった。ユールヒェンを椅子に座らせて、王は後ろから濡れた銀の髪を拭き始めた。複雑な、落ち着かない気分で、ユールヒェンは用意された紅茶にも手を伸ばせなかった。
「寒くは、ないか」
「……平気」
「なら、いい」
「……フリッツ」
「どうした」
「……いや、何でもない」
珍しいくらいに覇気のないユールヒェンを、王は怪しんでいた。起きるなり、こんなずぶ濡れになって、正直不可解だった。ユールヒェンの個人的な悩みなど、王が知る由はないのだ。ただ、心配にはなる。それは王にとって、ごく普通のことだった。
せっかくの髪が痛んでしまわないように、王は存外さらさらと流れるユールヒェンの髪に指を通した。その指が、不意に首筋に触れた。とたん、おもしろいくらいにはねた。もしや、と王は感づき始めた。動きを止めた手に、ユールヒェンは怯えた。名を呼び、顔を見ようとした王を拒否して、ユールヒェンは椅子から飛び退いた。衝撃で、ティーカップが床に落ち、割れた。だいぶ温くなった紅茶が溢れた。しかし、そんなことは気にしていられない。ユールヒェンは顔を背け、肩を震わせていた。コートを羽織っただけの姿が、なまめかしかった。
「ユリア」
「っ、すまん、フリッツ!」
部屋を逃げ出そうとしたユールヒェンの腕を、王は掴んで引き止めた。か細い腕、手のひらを通して直に伝わってきた。騎士である彼女が怖がっていた。泣きそうな顔をしているのが、王にもわかった。
「何があったのか、私には言えないことなのか」
静かな口調での王の質問を、肯定だとユールヒェンが頷いた。
「私の、顔を合わせることは難しいのか」
それは質問ではなかった。腕を引っ張り抱き寄せられたかと思うと、両手で無理やり視線を合わせられた。まっすぐ見つめあう状況が、居心地はよくないのに、嬉しいような気もした。
「ユールヒェン?」
「……あ、う」
泣きそうになった。嫌だ、ここで涙など流したら、余計に惨めではないか。情けない姿をさらしてしまうではないか。どうにかこうにか耐えようとする。それは王には隠せなかった。
ぎゅっと、胸に抱き寄せられていた。ユールヒェンは王の服に皺がよることも構わず、しがみついて、声を殺して泣いた。ごめん、フリッツ、と謝り続けた。その背を、王は擦り続けた。
私は汚い女なんだ、ごめん、フリッツ。そういう女になってしまったんだ。
伸びてきた髪を、ユールヒェンは切ってしまいたくなった。








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Thnks 空想アリア Sink

ぱくりっぽい、そういうわけではないんだけどな……
ユールヒェンはこんなに女々しくなさそう、なのでぼつ。



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