一次創作
主人、気分はどうですか

(2011/08/19)

『桐木とすみれ』失敗作
とある浪人さんやっと登場の回






紐を売り歩いて、金を稼ぐ。それで僅かな衣類を買って、木猿は九度山の山嶺への道を戻っていた。見張りに見つからないように、忍びの技を駆使した。
屋敷に入ろうとしたところで、木猿は才蔵を見つけた。無駄な肉のない女受けする顔、不遜な態度で、実力派の忍び。そんな才蔵に、木猿もまた、少なからず苦手意識があった。嫌いではないが、どうも付き合いづらい。
「お疲れ様です、木猿さん」
「おぅ、なんだ、俺の出迎えか」
「俺も、先ほどここに来たばかりなんですよ」
屋敷と妹分たちの茶屋を行き来する才蔵は、毎日が忙しそうに見える。それでも涼しい顔をして仕事をこなすあたり、他の同士とは違うようだ。
「何をごちゃごちゃ、と」
うるさいぞ、と屋敷から出てきたのは、二人の雇い主の浪人だった。申し訳ありません、と頭を下げると、浪人はさっさと入るように合図した。

雇い主は楽な着流し姿で、形の悪い瓜にかぶりついている。それを気にせず、二人の忍びは順番に仕事の報告をした。一見すると適当なやる気のない男に見えるが、ただ者ではない。もとは上田城主次男、真田左衛門佐、通称幸村だ。いくら徳川を相手に劣らぬ戦いをしても、今はただの浪人になる。以前、世とは無情だ、とささやいた木猿を、幸村は否定した。乱世に無情も何もあるものか、と言われた。現実主義を装う幸村が、次は幕府の徳川に歯向かおうとしている。それがおかしくて、木猿はよく笑ってやった。
「徳川の監視の目は、いまだ変わらぬか」
「本気なんですなぁ、若殿は」
「まぁ、左衛門佐殿のような方がいないと、俺たちも無職になりますからね」
「忍びの癖に、口煩いの」
食い散らかした瓜の皮を、幸村が無造作に投げた。図ったように女が出てきて、それを掴んだ。短く切り揃えられた髪が特徴的な、物静かな女だ。
「お前はいいな。こいつらと違い煩くない」
女は黙って頭を下げ、姿を消した。
「殿とのお喋り、俺は好きですよ」
「……そうかい。俺は雇う忍びを間違えたな」
それでも笑っている目元を、木猿は見逃さなかった。




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忘れ去られた勇士の女性(サイト内のどこかにいるよ)を、別キャラとして大幅変更して登場させてみた。名前は……同じか、帰るか。




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