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処女作集:ふたりの指

(2011/05/29)

佐弁


指切り

「では、指切りだ」
舌足らずな口で、若様が言った。純粋だなぁ、と、若様が少し羨ましく思えた。
鍛練に付き合ってほしい、父上のような武士になりたいのだ。仕方ないなぁ、明日でいいですか。うむ、では、約束だぞ
若様が細い小指を差し出してきた。俺はその指に、自身の小指を絡ませた。指切りなんて、初めてかもしれない。なんだか歯痒くて、なんだか嬉しくもあった。


指ずもう

互いの右手を重ね合わせる。歳のせいでもあるが、俺の手よりも、佐助の手のほうが大きかった。指も、長かった。しっかりとしていた。最近の佐助はいつも防具を着けていたから、俺も気付かなかった。
「佐助、佐助」
「若様」
「その……、指ずもう、でも、しないか」
たまには気を抜いて、その手にさわっていたい。


でこぴん

基本的に体で覚える子だと知っていたから、今回は、口先で叱るのを止めてみた。反省しなさい、と、おでこを指で弾いてやった。初の試みだったから、俺も思わず力んでしまった。案の定、若様はおでこを押さえて痛がっていた。赤くなっていた。微妙に涙ぐんで、それを堪えようとする若様。不謹慎にも、かわいいなぁ、なんて考えていたのは、内緒の話。


なめる

「若様は良い匂いがしますね」
とは、初めて言われた。佐助は俺の傍で、くんくんと鼻を鳴らした。まるで犬みたいだな、なんて失礼なことを考えてしまった。
「死臭ばかり嗅いでたからかな」
不吉だな、と思った。しかし、俺も、その臭いを吸っていた。これが戦の臭いなのだろうか。あと数年したら、俺もその場に立つのだ。父上のために、武功を挙げてみせるぞ。いつか佐助にそれを言ったら、何やら悲しい顔をされた(なぜか、俺にはわからない)。
佐助は恭しく俺の手をとると、手首に顔を近づけた。瞬間、生暖かい、へんな感触がした。舌でなめられていた。
「忘れないように、覚えておきたいんですよね」
すべての感覚で。


唇に触れる

小さな間で、若様が待っていた。今日も一緒に遊ぶ。
「父上は立派な御仁なのだ」
若様が楽しそうに話してきた。この方は、本当に父上を尊敬している。ことあるごとに、昌幸さまのことを話すのだ。それがなんだか、嫌だったり、する。俺はただ、若様が心配なのだ。忍びのくせに。
「早く、武士として、として、戦場に立ちたい」
あぁ、もう。なんで、そんなに。
黙れ、と言わんばかりに、俺は若様の唇を塞いでいた。その先は、聞きたくないよ。触れた唇は、意外にも、やわらかかった。


涙を拭う

「佐助、泣いておるのか」
夜、物音に布団から起きてみると、傍には佐助が座っていた。その頬が濡れていて、俺も思わず驚いてしまった。
「さ、すけ……」
佐助は、器用にも、座ったまま、寝ていた。そして、泣いていた。なんで、だ。わからない。わからない、から、なんだか、不安になった。
「泣くな、佐助」
その涙を、俺は指で拭った。
「ごめんな、佐助」
どうしてか、謝っていた。


さわる

二人とも、二人が大事な存在だった。大切にして、大切にされて、そのつもりだった。しかし、まだ足りないことがあるのだ。それに気づくには、まだ時間が必要なようだ。時間は、まだある。限られた時間だが、まだ猶予がある。
だから、今は、まず、手でも繋いで、二人で歩きましょうか。指先から、互いの気持ちが伝わりそうな気がした。




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「さわる」以外は、確かに恋だった様より。




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