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処女作集:武器を捨てて鳥になった

(2011/05/29)

伊真


あれから半月経った今でも、伊達政宗の行方は不明のままで、奥州は別の武将が新たに統一したそうだ。佐助からその事を聞いたとき、幸村は一瞬悲しそうな顔をした。それも、見逃してしまいそうなほど、一瞬。お茶を飲み干して、わかった、と一言だけ呟いた。半刻後には、中庭で槍を振るう幸村の姿があった。いつもと変わらない。いつでもお館様の役に立てるようにと、休まずに動き続けている。佐助の予想としては、今度こそ、落ち込むと思ったのだ。幸村と彼の御仁がただの好敵手ではないこと、互いの想いも、薄々気づいていた。それなのに、無理しているわけでもなく、いつも通りの生活ができるのだ。つまらないなぁ、と佐助が一人愚痴る。信頼しすぎだ、と悪態を吐きたくなった。だが、それまでだ。余計にものを言うつもりは露もない。主の考えくらい、わかっているのだ。幸村の朱塗りの槍を飛び越え、佐助は城を出た。すぐに戻ってきますよ、と。

上田の町に入る少し手前、道祖神に手を合わせる旅人がいた。旅人は目もとを隠すように、網目笠を深く被っている。格好は一般的な旅装束で、腰には申し訳程度に脇差しを携えている。
「どんな格好したって、俺たちには誤魔化せないよ」
俺様たちとは、もちろん、佐助と幸村のことだった。いつもの迷彩の忍び装束で堂々現れた佐助に、旅人は振り向くことなく、ただ懐かしいと笑った。
「なぁ、旦那に会っていかないの? 会いたくないの?」
旅人は小さく首を振った。わざわざ会いに行くことは、したくないのだ。ただ一目、遠くから見ればいい、と考えていた。
「俺は旅人だよ、忍び殿。ただ自由に、諸国を飛び回るのさ」
その声は、楽しそうとも、悲しそうとも捉えられた。困った旅人の笑みをよそに、忍びは深呼吸をした。はて、なんだ、その妙な深呼吸は。旅人が疑問に思うのもつかの間、視界が変わる、佐助に抱えられていた。何をする、と言う前に、体は宙に浮いていた。旅人を小脇に抱えた佐助は、黒いカラスに掴まり、飛んだ。
「何をする」
「旅人なら、忍びの俺が何をやったって、お咎め食らわないだろ」
まぁ、殺しは別だけどね。ははは、と飄々として言えるのは、彼らしかった。この格好では抗うこともかなわず、旅人はおとなしくしていた。落ちたら、怪我ではすまない。
そのまま連れられてききたのは、上田の様子が窺える、高木の上だった。
「今のあんたには、ぴったりの場所だ。俺様に感謝しな」
上田城が見下ろせる。一際目立つ赤の装束。幸村の姿が目に映り、旅人は静かに涙を流した。



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クロエ




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