一次創作
くのいち、いざ参る

(2010/04/13)

(真田十勇士.才蔵と六花)





旅の者を装って、男は西国まで来ていた。一服、と立ち寄った店で、男のもとに色香を纏う美女が寄ってきた。無言でやわらかな笑みを浮かべたまま、女が酒を注いでくるのだ。はて、こんな寂れた店に、このような美女がいるとは――
酒を注ぐ女の細腕を、男が掴んだ。


「お前、くのいちか」


衝動的、かつ直感的に――
女の笑みが、妖しいものへと変化した。どうやら、本物のくのいちであるらしい。


「あなたに用があるのよ、伊賀の才蔵さん」


男の正体を知り、わざと近づいてきたようだった。





店を出て、再び才蔵の前に現れた女は、梓弓を携えた巫女装束だった。


「お前、歩き巫女か」
「その血も流れているわ。人呼んで、六花。よろしく」


差し出された手を、才蔵は握ろうとしなかった。くのいちの類いには、あまり関わりたくないのである。才蔵の反応を見た六花は、驚いたような顔をしてみせた。


「意外だわ。才蔵は女に弱いと聞いていたのだけれど」
「弱いわけではない。まぁ、お前など、俺の好みじゃないのさ」
「ふーん。さすがは伊達の才蔵さん」


これが粋なのねぇ、とため息と一緒に、六花は言うのだった。彼女には、才蔵のような趣味はないようだ。
ただ、男を落とせないのは、なかなか悔しいものがある。
ぱっと、才蔵の腕をとると、六花は胸に強く抱き締めて、背伸びをして顔を近づけた。首もとに舌を這わす。汗のしょっぱい味がした。
魅力的な行為ではあった。男なら、女の誘いともとれる行動に、ついつい理性を捨ててしまいそうだ。しかし、それでも才蔵は、顔色ひとつ変えずに、冷静な眼差しで、六花から離れた。


「なんだか、フクザツな心境だわ」
「そうかい。じゃあ、俺はどうすればいいんだ」
「……一緒に来て。そういうお仕事なのよ」
「俺には関係ないね」


そう言って立ち去ろうとする才蔵の腕を、六花が再び掴んだ。これが人目につく場所であったなら、おかしな男女だと、注目を浴びていたかもしれない。
正直に言ってしまえば、才蔵は疲れていた。余計なことに首を突っ込む真似はしたくない。しかし、今現在、仕事がないのも事実である。
じっと見上げてくる六花は、さすがだと称賛すべきなのか、何か感じるものがあった。
才蔵を連れてくる――それが彼女の仕事だ。大事な主人に命じられたからには、実行するのみで、失敗などできない。歩き巫女である以前に、女として、彼女は主人に惚れていた。
――つまりは、才蔵の敗けであった。


「……つまらんことならば、すぐに帰らせてもらうからな」


ありがとう、と嬉々とした声が耳元で聞こえたのは、気のせいではない。六花は意外と可愛らしい女であるらしい。
非常に、厄介である。





才蔵の災難、はじまりはじまり





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我が家の才蔵は、こんに感じで真田のもとへ参ります。

才蔵は、わりと運がない人。容姿端麗で、かつ実力派な忍び。「伊達の才蔵」は、司馬遼太郎氏の小説から。
六花は、望月六郎に当たります。オリキャラ。元・ノノウ(歩き巫女)で、真田の忍びをやっています。真田に惚れています。

ssと呼べる品物でないので、ボツ。




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