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処女作集:絶望のかたちをした希望

(2011/05/29)

伊真


「竜の旦那が行方不明だそうです」
でもまぁ、死んだよ、おそらく。それが仕事だから、佐助は淡々と事を告げた。幸村は数秒動きを止めたが、やがて「そうか」とだけ言った。わずかに反応しただけで、あとは顔色ひとつ変えなかった。なんだ、それだけかよ。佐助の予想としては、もっと驚いて、泣きそうな面(つら)をさらしたりするのだと思ったのだ。ちょっと、問い詰めたくなった。
「悲しくないんですか」
「いや、悲しくはない」
「じゃあ、怒ってるの」
「怒るわけがなかろう」
「それじゃあ、なにさ。もしかして、喜んでるんだ」
「馬鹿を言うな。しつこいぞ、佐助」
語気が荒くなる。拳が飛ぶかもしれない。それとなく、佐助が幸村と距離をとった。しかし拳が飛ぶことはなく、幸村がその場から動くこともなかった。まだ熱いお茶を流し入れ、時間をおいてからおもむろに口を開いた。
「政宗殿が、死んだと思うのか?」
「いくらあの人でも、本体は人間ですよ。竜やなんやって、そんなの、結局は風潮に過ぎないし。やっぱり、死んだと考えるのが自然じゃないですか」
「たしかに、その通りだ。だがな、佐助」
またお茶で一息つく。ゆっくりと、慌てない様子は、いつもと少し違っていた。
「俺には、あの方が死したとは、思えないのだ」
きっとどこかで生きている。希望ではなく、確信だった。そうは言いつつも、やはり、心の奥では心配しているらしい。若干ながら、幸村の手が震えている。佐助は気付いていても、気付かないふりをした。
また出会い刃を交えられるという希望
俺の知らない場所で死んでしまったという絶望



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クロエ




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