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処女作集:報われぬ者にどうか幸あれと

(2011/05/29)

長市 ちょっと流血表現。



(あぁ、綺麗な花が、清潔な花が、汚れてしまう。長政様がくれた、大事な花なのに、)
けれども、言妖幻惑の牙は止まらない。半刻もした頃の武家屋敷。彼女の双頭薙刀も、白い花も、鈍い輝きの色に染まっていた。あはは、という抑揚のない笑い声と、断末魔の叫びが響いた。

近江の浅井の屋敷へ戻ったのは、翌朝のことだった。朝露を垂らした木の葉が朝日に光っている。
「市っ」
「長政さま、どうしたの……?」
お市を見た途端、長政は声を震わせた。お市にはその理由が分からなかった。長政さま、怒っているの? 市のせいだわ、ごめんなさい。
怒ってなどいなかった。ただ、悲しいのだ。血に染まったお市も、彼女を飾る花も、これではまるで曼珠沙華。これは正義ではない。不甲斐ない、まったくもって、不甲斐ない。黒髪にさした花を取り、長政はそっとお市を抱き寄せた。互いの顔は見えない。それで良い。
「長政さま、長政さま……」
どうしたの、とお市が声を紡ぐ。
「怪我がなくて良かった」
また新しい白百合を一輪、摘んでこよう。見たくないと言わんばかりに、長政はお市の頬に付着した血を拭い、花の花弁を破り捨てた。彼女から緋を排除するように、徹底的に。




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