無双
曲がりくねった愛の袂で

(2011/04/27)

6ネタバレ
夏侯覇(→←)姜維





ときおり夏侯覇は、はるか北を見つめては、憂いを帯びた眼をすることが多くなった。それはいつからか。姜維は気づけなかった。彼の慧眼でも、今の彼には、見えなかった。
幕舎にて、冑をはずした夏侯覇は、幼い顔が露になっていた。年齢はあまり変わらないのだろうに、どうしてだろうか。口に出せば何をされるかわからないので、姜維は黙っている。ただひとつ、聞きたかった。
「どうして、そのような顔をする?」
「……姜維か」
「魏が恋しくなったか」
先人たちの意思を継がんとする姜維は魏を憎んでいた。本人も気づかない、その重みは耐えがたいものだ。夏侯覇には魏の名を口にする姜維が怖かった。姜維は心配性だな、とおどけたような声で、疑念を否定してみせた。それは夏侯覇の本心だし、姜維も余計に疑うようなことはしなかった。
「では、どうして? 私には、わからないのだ」
気になる、気になってしまう。憂いた眼の理由を、姜維は知りたがる。夏侯覇は嘆息する。自分はそんなにも、気がかりな顔をしていたのだろうか。
「姜維が知らなくていいことだよ」
「私が、何かしてしまったか」
夏侯覇は肯定も否定もしなかった。姜維がどう受け取ったかは定かではないが、そっぽを向いて出ていった。外は風が吹き始めていて、砂ほこりが見えた。

魏を捨てた夏侯覇を、一人の魏将は恨んだ。その気持ちは夏侯覇にもわかった。蜀は父を討った敵だ。だからこその、一騎討ちだった。潔く倒されるつもりでいた。寸前で、彼が倒れた。姜維が背後を突き、勝負は意外な形で終わった。
夏侯覇はもう蜀の将で、魏こそが敵だ。蜀としては、姜維としては、夏侯覇というを手放すわけにはいかなかった。
双方で悩む夏侯覇の心は、まっすぐすぎた姜維には理解できなくなっていた。

好きでいることは辛い。恨み、捨てることもできないのは、さらに辛い。





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透徹

都合によりDLCを利用できない私、つらし




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