悲劇
「ああ、あぁ、なんということなの」
女は大粒の涙をぼろぼろと零していた。せっかくの綺麗な亜麻色の髪を振り乱して泣き叫ぶ。
「あの人にもう会うことが出来ないだなんて、信じられない、信じたくない。こんなの、耐えられないわ」
私は彼女をどこか冷めた気持ちで眺めていた。それもその筈だ。この情景は何回も、何十回ももう見てきているのだから。
この物語の展開も、結末も、女だって知っている筈である。なのにどうしてこうも毎回感情的になれるのか、私はむしろ不思議さよりも不気味さを感じた。
「もう、生きている意味など見当たらないわ。意味なんてみんな消えてしまった。あの人だけがが、あの人と共に過ごす世界だけが、私の全てでしたのに。ああ神様、貴方はなんて非情なのでしょう。試練といっても限りがございますに。あぁ、なんということ…」
そう言って、明日もまた貴女は同じことを繰り返していくのだろう。なぜこうも毎回悲劇を演じるのか、嘆くのか、頭を捻るばかりだ。
「ねぇ、私も、今から貴方のところへいくわ…、」
思考を巡らせているうちに、女はスカートの内ポケットに隠していた、折りたたみのナイフを取り出して自らの頚動脈に突き付けた。
どくん、と血液がうった音がこちらまで聞こえてきた気がした。
「…今度こそ」
女はふらりと静かに倒れて、血だまりの中で、確かにそう言って息を引き取った。はっきりと耳に届いてしまった。ああ、これで死ぬことが出来ていたなら、きっと幸せな結末だったのだろうけど。
悲劇はまた繰り返されると知って、それでも女は幸福な笑みを浮かべて死んでいた。
私は憂いた溜息をついて、眠りにつく仕度をはじめた。
「今回も、貴方の元へは、いけなかったのね」
そう言って、女が顔をくしゃりと歪めて笑う朝が、また明日も来るだろう。




bkm
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